鰐王の憂鬱

□鰐王の憂鬱
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鰐王の憂鬱

大河の氾濫が治まり俺達の繁忙期の後、ヒト等の種蒔きが終わった頃、
ソレは堕ちて来た。
明良〈アキラ〉
俺のすべて。

偶然の成せる技かアキラが俺を選んだ事は、なんたる僥倖。
鳥どもを蹴散らし連れ帰った我が館で迎えた夕餉の宴。
我等は普段は魚も肉も生で食べることが多いが、今夜はアキラの為に蒸し焼きにして供された。
3mはあるピラルク。

アキラが固まっている。
魚が怖いのか?
恐る恐るといった物腰で白魚の様な指が差し出される。
10cm近くある鱗に指を掛けるも…

理解した俺は繊手を手にとり…
今まで見たこともない美しい手。
指の関節も爪も作り物の様な、労働を経験した事のない姫君の手。
俺は鱗に触れた指を嘗めた。
引っ込めようとするのを邪魔するようにしゃぶる。
困った顔をするアキラの頭を撫でて、手を離してやった。

魚の身を取り分けられないアキラの為に俺は鱗を剥ぎ、身を解してやる。
一欠片、口に運んでやると、
「美味しい。」と。

あの指が汚れるのを厭い、食事の世話はすべて俺がした。
それが良くなかったらしい。

口惜しい。

食事の後、暫く姿が見えないと思っていたらこともあろうにハニと共にいたらしい。
【はし】というものを作っていたと。

食事の道具らしいが、始めはハニからナイフを借りて自分で作ろうとしたらしい。
刃物など恐ろしい。
怪我をしたらどうするのだ。
ハニの判断は適切だった。
褒めてやるぞ。

だが、しかしその様な事はそもそも俺に言えば良いのだ。
面白くない。

完成していた【はし】を手本にして俺が作ったものをすり替えておいた。

【はし】を作るのはこれからは俺の仕事だ。


end

※注 ここに出てくるピラルクという魚。
アマゾン川原産で現在アフリカにはいません。
生きた化石と言われる古代魚なので12000年前は世界中にいたかも…です。
ご了承下さい。
 

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