鰐王の憂鬱

□鰐王の憂鬱2
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アキラの姿が見えないと報告されて、
探しに出た岸辺。
いきなり深くなる渡しの場と違ってここは遠浅になっていて、アキラのお気に入りの場所だ。
居た、居た。
金色を纏う者がしゃがみ込んでいる後ろ姿。
何やら一生懸命話しかけている様子だ。
誰と話しているんだ?
俺は近づいて行ってギョっとした。
アキラが子鰐の鼻先にその繊手を差し出している。
「アキラ!何をしている⁈ 」
振り返ったアキラがひらひらと手を振る。
「セベク〜 どうしたの? 」
相変わらず緊張感のない笑顔。
「おまえ、そいつは何だ⁈
野生の鰐の子じゃないのか? 」
ここいらには俺達、獣人の幼体でまだヒトガタになれない者、眷族の子、そして野生の鰐の子がいる。
一族、眷族の子なら安心だが野生なら齧られるぞ!
「え〜お話は出来ないみたいだけど、お返事はしてくれるよ。
ほら。」
子鰐がカクカクと頷いている。
「でね〜抱っこしていいか聞いていたの〜 」
抱っこォ⁈
何言ってんだ⁈ おい!
アキラは全長50cmぐらいのその子鰐の前脚の下を持つとおもむろに持ち上げた。
衣が濡れる事も厭わずぎゅううっと抱き締める。
俺でもあんなにキツく抱きつかれた事ないのに!
ムカムカする。引き剥がしてやろうと近づいて行くとアキラは、アキラは!
子鰐の鼻面にチュっと〜〜‼︎
俺はすかさず子鰐を取り上げると河の中に投げ捨ててやった。
「あ〜‼︎セベクなにするの?
かわいそうじゃん。」
どっちがかわいそうなんだよ?
「旦那の前で浮気とはいい根性してるじゃないか… 」
「は?浮気⁈ 」
俺はアキラを担ぎ上げると踵を返した。
「満足するまで相手してやるよ。
覚悟するんだな。」

自覚のないウチの嫁は時々こういった事をやらかす。
マジで勘弁してくれ。



end
 

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