鰐王の憂鬱

□鰐王の憂鬱 3
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アキラが今日は子供らと水遊びをするのだと言って、昼餉の用意をしている。
俺も四六時中一緒に居られる訳じゃない。
今回はある程度の自由を与えていたのが裏目に出た。

大量の食べ物を岸辺の日陰に運んでやると俺は獣化して河を下って行った。
帰宅後の大騒動の事など想像もせずに。
アキラはこの後殆どの時間を河の中で過ごしたようだ。
本来ならば何の問題もない。
本来ならば、だ。
この日は、この時期としては異常なほど暑かった。
当然、日差しも強かったのだが我々はそのような事を気にした事がなくて、
夕方になって戻ってきたアキラを見て老女が卒倒しかけたのも頷ける。
アキラは濡れた腰布1枚で帰って来たのだが(俺にとってはこれだけでもお仕置きもんだ‼︎ )身体中が真っ赤だったのだ。
すぐにクヌムが呼ばれ、身体を清められる。
この時にはもうアキラは痛がって肌を触らせなかったという。
丁度この頃帰って来た俺に老女は膝まづいてこうべを垂れ、泣きながらどんな処分も受けると宣う。
意味がわからず向かったアキラの元で俺は絶句することとなる。
“ 真っ赤 ”
皮を剥がれた兎のように真っ赤っか。
「なっ‼︎ 一体どうした! 」
病気かっ⁉︎
クヌムに軟膏を塗られているアキラが時折『ぎゃー』とか叫んでいる。
「日焼けです。
軽い火傷ですよ。」
クヌムが溜息をついた。
「特に酷い所に薬を塗りました。
本来冷やすしか治療はありませんのであとは冷水に漬けておくくらいしか手がありませんね。」
俺の手がワナワナと震える。
どうしてくれよう…だが一体誰を?
「またやっちゃったー! 」
またまた緊張感のないアキラの一言。
「毎年一度はやっちゃうんだよねー、
暫くしたら皮剥けて治るよ? 」
皮ー! 剥けるって⁈ おまえ‼︎
こっちが卒倒しそうだ。

バタバタと足音がしてアビスが飛び込んで来た。
目を見開き、絶句したアビスが一瞬躊躇った後アキラを抱きしめた。
「ぎゃーあぁー! 」
アキラの凄まじい悲鳴が響く。
デンウェンとタウエレトも駆け込んで来て赤剥け兎状態のアキラを呆然と見つめている。

俺は今アキラを抱いて、いや抱きしめている。
褥の中でピッタリとくっついているのだが色っぽい事は何もない。
ただ、俺の体温が低いのでそれが気持ちいいらしい。
そちらはいいかもしれないがこちらは蛇の生殺し?
いや、鰐の生殺し。
いい加減にしてほしい。


end
 

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