軍団長、愛の稟議書

□軍団長、愛の稟議書 4 浮気疑惑
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アビスの様子がおかしい……。

アキラがそう気づいた時、それは始まりから暫く経っての事だった。

皆で夕餉をとっている時も何故かソワソワしている様子。
以前は他の夫達と同衾する夜は露骨に機嫌が悪かったのだが、最近はさっさとアヌビスの別邸に戻ってしまう。
アキラも嫉妬深い年下の夫が大人になったのかと容易に考えていたのだが……
ある日。

高台の広大な敷地にはアキラの館とアビスやセテフの住居であるアヌビスの別邸の他にアヌビス兵の為の住居もある。
駐屯地にも居住施設はあるが、あくまであちらは宿舎であり、本来の住居はこちらなのでアキラも兵の姿はまま見掛ける。

何の気なしに通りかかった別邸への回廊。
ヒソヒソと話す男達の声が聞こえる。
実はアキラ、セテフからアヌビスのジャッカルの言葉を教わっていてそれなりに会話することが出来る。
それ故、その好奇心の塊の様な性格が災いした。
思わず立ち止まり、耳をすませて聞き入る。

「……でもヤバいんじゃね?
大将……奥方の居るすぐお膝元で…… 」
「つい最近、何かの用事でアヌビスからこっちに移って来たらしいぜ? 」
「大将の所縁の女性か……
どんな関係なんだろう?
案外、大将がこちらに呼び寄せたんだったりして……?」
「あーっ!
ひょっとして筆下ろしの相手だったりして?」
「あるある。
はじめての時の女は忘れられないよな⁈ 」
「で? 今は何処に居るのよ?
その女人。」
「それが毎回、ものの見事にまかれるらしいのよ。護衛が。」
「そんなに大事な女人なのかな?」
「なっ? 絶対怪しいだろ…… 」

『なに……? コレ。』
アキラは驚愕し、ショックを受けた。

『あの、アビスが…… 浮気?? 』
まだ噂話に華を咲かせている兵の元からそろりと離れたアキラは……どうやって館に戻ったのか憶えていない。
ただ、兵士たちの話だけが頭の中で渦巻いていた。


決定的だった。

こういう時は間が悪いもので、得てして物事をこじらせていく。
今宵、アビスは夕餉に戻ってこなかった。
こんな事は初めてだ。
自然とアキラの箸は下りがちになり、とうとう箸を置いてしまった。

元気のないアキラを心配したセベクが声を掛けてくる。
「アキラ、今宵は十六夜だ。
俺の月見酒に付き合わないか? 」
「うん……ありがとう。」


アビスの不可解な行動はセベクの耳にも届いていた。
それがとうとうアキラにも知れたようだ。
元気のないアキラなど見たく無い……
セベクは寝所のすぐ外の中庭にアキラを誘った。

泉のほとりに腰掛けて、膝の上に座らせる。
後ろから抱き込んで髪を梳いてやる。
ふたりの元に沈黙の帳が落ち、そしてアキラの目からは涙が溢れ落ちた。
セベクがそれを指で拭って口づけてやる。

セベクは、今宵はアキラに無理強いして繋がろうとは思っていなかった。
深く傷ついているだろうアキラを思い遣って添い寝のみで我慢しようと思っていたのだ。
だが……

「セベク……ちゅーして。」




「まずった……! 」
今まではいくら遅くなっても外泊することは無かった。
だが夕べは、懐かしい味についつい酒量も増え、寝入ってしまった。

早朝の朝靄のなか、急いで帰ろうとしているアビスが……足を止める。
河……
最近、夜出掛ける時は渡しの鰐人に砂金を渡して帰りを待っていて貰っていたのだが……

「坊っちゃん。」
声を掛けられて振り向いた先にいたのは、珍しく眉間に皺を寄せたデンウェンだった。



その夜。
気まずい雰囲気が立ち込める夕餉の場。
そんななか、ただひとり気丈に、明るく振る舞うアキラ。
そしてそれに付き合う、いつもより口の重いデンウェン。
あとの4人はまるで親の仇を見るように、アビスを睨んでいる。
居た堪れず、食事を中座して高台に戻ろうとするアビスに、驚くべき事にアキラがついて来た。
「アキラ? 」

気配を感じて立ち止まったアビスに追いついたアキラは、素早くその腕をアビスの腕に絡ませる。

暗闇の中、小さな燭台を頼りに、ここまで追い掛けて来たアキラ。
潤みかけた蒼い瞳が見上げている。
「今夜も……出掛けるの?
もし……そうで無いなら、僕と…… 」
滅多に聞けない、アキラのお強請りの言葉。
アビスは元々の原因は自分だという事も忘れてほくそ笑んだ。
アキラからのヤキモチは……
素晴らしく心地よい。

同時に、獣の血が滾る。

高台へ向かう登り坂。
宵闇の中、アビスはアキラの小さな身体を押し倒した。
柔らかい草の上で、口づけも愛撫も無しに腰布を引き千切っていきなり挿入する。
「きゃぁーーっ! 」

暗闇に響く悲鳴を複雑な気持ちで聞いているセベクたち。
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