戦神のセオリー

□戦神のセオリー
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クシュの中洲の地から遠く離れたアヌビスの里。
砂漠に近いこの地の気候は厳しい。
しかし、この地に順応したジャッカルは軍事国家として繁栄の一途を辿っていた。
そこに君臨する戦神《いくさがみ》。
一族を統べる長。
射千玉《ぬばたま》のセテフ。
もはや伝説《レジェンド》と化した美丈夫は、新妻を得て更に耀く。


sideアビス
アキラはどんな事でも柔軟に吸収する。
勉学然り、閨事然りだ。
閨事はともかく、昨日から教えているアヌビスの象形文字をほぼ自分のものとしているアキラに、練習の一環として手紙を書いてみたらどうかと勧めてみた。
アキラが迷わず選んだのは……
叔父上。
射千玉のセテフ。


この時代、獣人達は遠方との連絡は鳥を使って行なっていた。
アキラが、
「伝書鳩みたいだね。」と、言ったが
アビスには “ 鳩 ”という鳥が理解出来なかった。
ここでは猛禽が使役される。
アキラの手紙を入れた信管を背負った鷲が、アヌビスに向けて放たれた。


「閣下、クシュから私信が届いております。」
真新しい筒を開けると仄かな薫りが漂う。
これはアキラの為に調合された乳香だ。
丁寧に漉かれたパピルス紙は薄紫に染色されている。
畳まれたパピルス紙を開いてみると、そこには装飾と見紛うばかりの見事な筆跡《て》の象形文字が記されていた。
……アキラからの恋文……

大好きなセティ……
あの悲しかった別れから随分経ちましたね。
お元気ですか?
セティが恋しいです。
あのときつけてくれた痕はもう消えてしまいました。
……どうして一緒にいられないのでしょうか?
僕は寂しい。
悲しい……
あなたのことを想うだけで胸が張り裂けそうです。
セティ……僕の旦那様。
愛しています。 ラー。


「くっ……‼︎ 」
パピルス紙に落ちた涙の跡を見つけたセテフの中で何かが壊れた。
握りしめた拳の中で爪が刺さった掌から血が滲みだす。
「ラー‼︎ 」
戦神の絶叫。
卓の上の茶器や椅子が飛んで壁に当たり、粉々になって床に落ちる。
何事かと駆けつけた副官と、一瞬視線を交わすと半獣化した。
ナイフを背負うと完全獣化する、体長3m近い黒獣、セテフ。
彼は一吠えすると猛然と駆け出して行った。
副官が卓の上に残されたパピルス紙に目を留め、独り言ちる。
「これは……堪らないな。」


セテフがアヌビスを飛び出して半日以上が経過している。
じきに夜半。
黒獣は愛しい妻のいる中洲を目指して疾走していた。
通常、獣化したジャッカルが全力疾走しても丸一日かかる旅程をその3分の2に満たない時間で走破しつつあるセテフの驚くべき脚力。
それも、もうすぐに報われるのだ。後は河を渡るのみ。
河幅の狭い所を選んだとはいえ、ゆうに20mはあるそこを、セテフは跳んだ。
軽々と跳躍した黒獣は着地の後、勢い余ってかなりの距離の地面を掘り、激突した樹木を折って漸く停止した。
轟音に飛び出して来る中洲の住人達、勿論そのなかには鰐王も、そしてアキラ、アビスもいる。
アキラが見たのは折れた木の根元に片膝をついて蹲るセテフの姿だった。
「セティ‼︎ 」
これは夢か誠か?
思わず駆け寄ったアキラは肩で息をする……そんな姿は見た事もない……セテフに抱きついた。
強く、強く抱き合い、口づけを交わし合う二人をセベクとアビスは複雑な気持ちで見つめていた。

姫抱きで運ばれた寝所で、いきなり後ろから覆い被さるセテフに限りない愛しさを感じるアキラは、涙で目を潤ませ、
「ありがとう。」と。
「アキラ……アキラ……‼︎ 」
激しく突き込んで、抽挿し、攪拌する。
「ああ……帰ってきた。
アキラ……アキラだ! 」
感極まってうわずる声のセテフに、ただそれだけで登りつめるアキラの、その白い項に牙をたてる黒獣。
また獣化して、アキラを貪欲に支配して、セテフは離れていた間の溝を埋めるかのように、抽挿し、白濁を注ぎ込む。
獣の種付けは朝まで終わることはなかった。

第一、第二の夫達には色々言いたい事がある。
だが今朝だけはそっとしておこうと思っていた。


end
 

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