アキラのお誕生日 2015

□アキラのお誕生日 2015
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ヴァジェトの薔薇色の唇がアキラの薄桃色の唇を食む。
そのまま、吃驚して口を開けたままのアキラの咥内を長い二股に分かれた舌でグルリと嬲る。
そしてアキラの口にチョコレートケーキが押し込まれてきた。

「!!」

咀嚼など必要ないほど滑らかな舌触り。
アキラは、今度は感激のあまり目を潤ませた。
ゴクンと嚥下する華奢な喉。

「お、美味しいよぉ〜
凄く美味しいよぉ〜!」

「アキラ殿……
ようございましたね。
もう一口、いかがですか?」

「一口と言わず全部欲しいよ〜」

「まぁ……アキラ殿ったら……うふふ」

ヴァジェトはあれから、何度自身を責めただろう……
なぜ自分はこの姿でアキラ殿の前に立ったのか、と。
本来の男性体で出逢えて居れば、自分も夫として並び立てていたというのに。
あまつさえ、年若い息子に先を越されるなどと……

だが、ヴァジェトは機会を狙っている。




「アキラ殿……?」

ご婦人方を掻き分け、ひときわ大きな身体を揺さぶって、異形のものが近づいてくる。

ミノタウロスのムネビス。
アキラの夫のひとり、今日の【女子会】の最大の功労者だ。
彼は、そのゴツい手に似合わず大変手先が器用で、アキラからレシピを聞くと、それが料理であろうと菓子であろうと美味しく仕上げてしまう魔法の持ち主だ。

「あ、ムネビスだ! ムネビス〜」

口許に、僅かにチョコレートをつけたまま、ヴァジェトの元からムネビスのところに飛んでいってしまう、そんな子供のようなアキラを目を細めて見守るコブラの女王。

反対に、飛びついてこられたムネビスの方は、喜びと戸惑いに目を白黒させながらしっかりと抱きとめた。

「アキラ殿、走っては危ないですよ」

腋の下を掴んで事も無げに持ち上げて、目についたチョコレートをペロリと舐め取る。
アキラがくすぐったさに身悶えする様に劣情を感じざるを得ない……

彼にだって、決して欲がないわけではないのだ。



「アキラ殿……あの、この後少し付き合ってもらえないだろうか?」

珍しくも口ごもるムネビスに多少の不穏さを感じつつも、二つ返事で了承する。

「うん! いいよ」

これなら衣を汚さないだろうと、新たに渡されたクッキーを囓りつつ、小首を傾げる様は、誘っているようにしか見えない。
そんな自分を見るムネビスの目が熱を帯びてきた事に気づかないアキラだった。




アキラがムネビスたちミノタウロス族の郷を訪れたのは、今回が初めてだった。
中洲で毎日饗される乳製品や各種の肉、そしてその加工品が日々生産されている場所。
前々から興味津々だったアキラだったが、招待もなしに勝手に訪れる訳にはいかない。
ミノタウロス族は元々気性が激しくて、どんな不測の事態が起こるかわからない場所、そんな物騒な土地だった。

それが、成り行きからその地に相当数生息していたヌーや水牛、野牛を飼育し、加工品を主にクシュやアヌビスに卸している。
何しろ、この牛科の動物はそこいらの草原にいくらでもいる。
そしていくらでも増える……

ミノタウロスたちは、生活にゆとりが出来た事によって以前より温厚になっていった。


逞しいミノタウロスが騎乗するに相応しい屈強な騎獣に乗せられて、連れて来られたのは意外にも草原地帯ではなくて、蟲の国に隣接する森林の方だった。
途中で目隠しされて、次にそっと手が離されたとき、目に飛び込んできたのは、現代では【ログハウス】と呼ばれる丸太小屋だった。

三角屋根のその建物は高床式のこじんまりとした佇まいで、ムネビスはアキラを抱いたまま騎獣を降りると扉に向かった。

「アキラ殿、19歳のお誕生日おめでとう……これは俺が造ったあなたへの贈り物。
お納め下さいますか?」

ムネビスの手がアキラの手を取り、その甲に口づける。
呆然と、口を開けたままログハウスに魅入っていたアキラの身体がピクリと震えた。
そうして、やっと自分を取り戻したアキラがムネビスに抱きついた。

「ありがとう! ありがとうございます!!
凄く素敵! このログハウスが僕のものなんて夢みたい!」

「本当に? 本当に気に入って頂けた?
……俺が一人で建てたので行き届かないところもあると思うが……」

「ムネビスさんが造ってくれたの?」

吃驚しているアキラを連れて中に入ると、ふたたび歓声があがる。

入ってすぐは居間だった。
頑丈な造りの卓と椅子。
卓の上の籠には新鮮な果物。

床にはミノタウロス族の特有の、荒い織りに直線的な模様のラグが敷いてある。
部屋の隅には暖炉まであって鍋が掛けられるようになっていた。

その暖炉の前には、葦舟を編む手法で造られた寝椅子があり、アキラが見ても質の良いフカフカの羊の毛皮が敷かれている。


ムネビスはそこにアキラを降ろし、自分も横に腰掛けた。
手を握り、腰に手を回して抱き寄せる。


「アキラ殿……
俺にも情けを……かけていただけますか?」

次の瞬間、アキラは自分のウエストほどの太さの太腿に乗り上げ、抱きついていた。

「!!」




※このお話は立花様のアイデアを参考に創作しました。
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