アキラの誕生日2016

□アキラのお誕生日2016
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果てしなく続くと思われた挨拶回りから解放されて、今アキラはやっとひと息ついていた。
ボール・ルームに面した中庭のポーチに、風に当たりたかったのと、いい加減辟易していた人間関係から逃れるためにやって来た。
剥き出しの肩がぶるりと震える。
6月とはいえ夜は冷える。だが、この冷気は異常だ。

「アキラ殿、こちらでしたか」

鬱陶しい……
不機嫌さを隠しながら、アキラは控えめな微笑みを浮かべた。
目の前に立っている男は今夜の招待客のひとり、B国の伯爵家の次男だったと思う。

「ええ、少し風に当たりに来ていました。
……もう、戻ります」

踵を返そうとするアキラの肩に男の手が触れる。
華奢な肩に痕がつきそうなほど強く掴まれて、アキラは顔を顰めた。

「ちょうどよい……少し庭を散策しませんか?」

これは控えめながら “ 誘っている ”言葉だ。
自分がそれほど軽く見られているのかと、アキラは怒りで顔を紅く染める。
だが相手はそれをアキラの恥じらいととったようだ。
元々骨格の発達した西洋人に比べて、日本人との混血のアキラの身体は華奢だ。
同年代の令嬢たちと比べても格段に細いウエストに手を回される

無礼な!

「ジェラール様……」

しかし、アキラの発した非難の言葉は最後まで紡がれなかった。
何かが飛んで来て、目の前の男が “ 吹っ飛ばされた ”
絶妙な配分で、密着していた筈のアキラには怪我はおろか衝撃さえも最低限のものだ。

だがアキラは、今目にした別の事で固まっていた。
今……視界の端にかろうじて捉えた、見慣れた【あれ】は?




相変わらずアキラは美しかった。
久遠の常闇のような世界の中、求め続けた愛しいひとが今、目の前にいる。

「アキラ……」


華奢な身体を包む、細身の白いドレス。
アキラにぴったりとフィットした鞘型のドレスは膝のあたりで打合せが重なり、そこからは別布のレース地が流れるように広がっている。
首には透かし彫りを施されたプラチナのチョーカー。


「セ……ベク?」


黒いタキシードに包まれた逞しい身体に攫われるように抱きすくめられて、息もつかせず唇を重ねられた。
思わず押し返そうとした手を掴まれて、ガッチリと拘束される。
口づけはますます激しくなり、最早立っていることは不可能だ。

「もう、絶対に手放さん……」

腰が抜けて震えるアキラはセベクの美声を聞いて気が遠くなった。

「アキラ……俺のちびっこ。
さあ、帰ろう……皆待ってる」



パーティ会場の有名ホテルから、いつアキラの姿が消えたのか、誰も知らない。
はじめは誰か、気の合った者と席を外したくらいにしか思われていなかったのだが翌日、夕刻になっても何の連絡もなく、さすがのエーヴァも慌てた。



そんな頃、時間も場所も遠く離れたとある宮殿。
白く美しいアラバスターで建造された、恐ろしく高価で貴重な宮殿の一室。
天井から絹の薄布が幾重にも垂れ下がり、薄暗い室内を蜜蝋の蝋燭が照らしている。


蠢く、異形のものたち。
皆、ヒトの姿をしているがその本性は古代の人間が崇拝していた動物なのだ。

「ラー……」

胡座を掻いて車座に座る20人を超える男たち。
その中のひとり、筆頭夫君セベクの腕にはすやすやと眠るアキラが抱かれている。
皆の視線が集まる中、すぐ隣に座るセテフの腕にアキラが渡された。

感慨深げに、感極まって……セテフが唇を噛み締める。

「ラー、おかえり」



優しく触れた指が覚醒を促す。
金色の睫毛に縁取られた瞼がゆっくりと開いて、蒼い瞳は驚愕に見開かれた。

「う……そ、また夢?」

「嫌だねえ、ラー。
夢のはずがないだろう?
ふふ、思い知らせてあげようか?」

「セティ!」

そしてアキラは周りの、自分に集まる視線に気がついた。
少し強張った顔をして、こちらに手を伸ばして来るのはセベク。
反対側からはアビスが覗き込んでいる。
そして愛してやまないものたちの顔、顔、顔。

「皆、ただいま……」

たとえこれが夢であっても、誕生日の夜に贈られた、アキラが一番欲しいもの。
最高のバースデープレゼントに涙するアキラはこの後、自分がどうなるのかわかっていない。




END

少し中途半端な終わり方になりましたが、この後は皆様のご想像にお任せします。
まず、酒池肉林ですね。
……アキラの身体持つのでしょうか?
ヤり殺されてもおかしくない。
皆様、お手柔らかに!
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