鰐王の憂鬱

□鰐王の憂鬱 5 産卵
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完全に半獣化したセベクがアキラの腰を掴んでいる。
その表情は伺い難いが、忘我の域を漂っている……という感じではなさそうだ。
寧ろ、細心の注意をはらって腰を使っている、という状態に見える。
時々ぴくぴくと痙攣するアキラを抱き寄せて、今度はゆっくりと抽挿しはじめた。
自身の先端から吐き出された子種を塗りこめるように擦りつけていく。
「アキラ…… 」
くぐもった声で妻の名を呼ぶ……
鰐王の決意。


水の中での長い交尾の後、セベクは閨の間の褥に場所を移して緩々と抽挿していた。
男膣《なか》を子種で満たさんとしているかのように突き上げながら、射精し続けている。
それは東の空が白むまで続けられた。


ふたりきりで過ごす日が5日を数えた頃、アキラが体調不良を訴えだした。
のべつ幕無しヤりまくっている、そのせいかと思われたが、下腹に痛みと異物感を感じて慌ててクヌム師が呼ばれる。
いや……セベクは意外なほど慌ててはいなかった。
セベクはすべて承知で……時が満ちるのを待っていたのだ。


セベクの立会いのもと、老女や侍女まで下がらせてクヌムの診察が始まった。
アキラは眠っている。
セベクはわざとクヌムを眠っているアキラのもとに招きいれた。

夜着の前を開けて下腹に触れようとする。すると、
「あまり強く押さえないでほしい。」
セベクの意外な、意を含んだ言葉。
そのときはなにもわからず言葉通り、慎重に下腹を押さえてみた。
「 ‼︎ これは⁈ 」
クヌムの顔が驚愕に歪んだ。
「鰐王 !“ コレ ”は一体何ですか? 」
クヌムの手は誤魔化しきれないほど震えていた。


「卵核を埋め込んだ。
首尾よく受精して、今はアキラの身体から養分を取って成長している。
殻が形成されるのはもう少し先だから、まだ暫くは子種を注いでやらなければならない。」

「鰐王、あなた…… 」
クヌムには聞いた憶えがあった。
鰐人のもうひとつの繁殖方法、それは相手に卵の核を産みつけ精子を注ぐ。
生まれてきた仔は8割方、父親に似る。
何よりも小型の卵を産むので母胎に負担が少ないという。が、
「他の夫達に何の話もなく、勝手にアキラを孕ましたのですか? 」
クヌムだって夫の一人だ。
黙ってられない。
「それが何か?
アキラはもともと俺のモンだ。
発情期に子作りした。
何か問題あるっていうのか⁉︎ 」
鰐王に凄まれて引き下がるしかないクヌムは、アキラの体調管理に全力を傾ける決心をした。
「どのくらいで産卵ですか? 」
「あと3週間からひと月ぐらいだ。
ちなみに卵は6個。」


「怖いよぉ…… 」
自分が産卵することを聞いて、アキラはえぐえぐと泣き出した。
「僕、死んじゃうの? 」
「なにを馬鹿な事を。
心配しなくても大丈夫だ。
俺がついているからな。」
小さな身体をそっと抱き寄せた。
「生まれたての仔鰐はこのくらい(7〜8cm)しかない。可愛いぞ。」
途端にアキラの目が輝く。
セベクにはこの妻の扱いがわかりすぎるほどわかっていた。


「ラーが孕んだ⁉︎
一体何の冗談だ? 」
アヌビスの郷の館で大声を出しているのはアビスではなく、アキラを溺愛してやまないセテフだ。
「一体誰の仔だ⁈ 」
報告に来た文官の首を締め上げている。
「鰐王殿の…… 」
終いまで聞かずに文官を投げ捨てる。
「あの野郎……! 」
ギリギリと奥歯を噛み締め悔しがる様にいつもの余裕などない。
「クシュに参る!
用意せい! 」


「セティ‼︎ わあ! セティだ! 」
突然現れたセテフにアキラは破顔し飛びついた。
「ラー……あまり暴れてはいけないのではないのか?
ほら、腹を押し付けてはならん。」
セテフにはアキラを孕ませたセベクの事が許せない。
だがそれ以上にアキラを惑溺している彼はアキラの事が心配で堪らない。
「もうすぐ産卵なんだって。」
無邪気にはしゃぎ、上目遣いで見つめてくる……愛し子。
「ちゃんと世話をしてもらっているのか?
食欲は? 」
「大丈夫だよ? 」
大丈夫なはずがないだろうと、セテフは叫びだしそうになる自分を必死に抑えた。
そして決心する。


本来の父親であるセベクよりも、セテフはアキラに対して過保護だった。
彼は産卵の最中も付き添いアキラを励ます。
アキラが6個目の卵を産み落としたとき、彼は感激と安堵のあまり涙した。
「セティ〜、セベクも!
ふたりして何ウルウルしてるの⁈
ヘンだよ〜? 」
「だって、おまえ…… 」
セテフは言葉にならず、只々抱き締めるのみ。
そんな遣り取りをしている三人の傍で、老女が慎重な手つきで卵を孵卵用の籠に移していた。
毛布で包んで部屋の片隅に置く。
これで全員が雄になる。
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