現代ではアスワンと呼ばれる場所に、遥かな古代 “ 水上宮殿 ”と言われる神殿があった。
その宮の主人は、水を司る神【鰐神セベク】
無骨で寡黙なこの神は、常は神殿に引きこもり滅多に姿を現さない。
それはもう何千年も続き、人々の記憶が朧げになっても変わらなかった。

そんな水上宮殿に、たくさんの鰐たちが集まって来ていた。
ある時期から頻繁になったその現象の時は、普段は滅多に人の目に触れない鰐人たちも何か楽しそうだ。
そして宮の上空には色とりどりの鳥たちが飛び交い、ここでは特別な鳥……ハシビロコウがその嘴に花を咥えて集まって来ている。



「アキラ」

その声で、耳許で囁かれると腰砕けどころか、胎内がじんわりと濡れてくる。
潤んだ目でその元凶を見てみるとシニカルな笑みを浮かべたセベクが、腰を抱き寄せてきた。

セベクの宮の、川風の通る涼しげな中庭で、今ふたりは睦み合っている。
先ほど目覚めたばかりのアキラは、セベクの手でここまで運ばれ、穏やかな時を過ごしていた。
そこは中洲の中庭を模した庭で、特にふたりの私室の外……ふたりが初めて口づけを交わした泉が再現されている。

「アキラ、俺のちびっこ……
やっとふたりでゆっくりと過ごせる」

永い、永い、離別のときを哀しみとともに越え、12000年のときの隔たりの末、やっと邂逅を果たした恋人たちは、それでも中々一緒に居られず……セベクは寂しいときを過ごしていた。
彼は、その本拠地をアキラの誕生してくる “ 現代 ”に定めた、セテフやアビス、アポピスと違って、神として紀元前100〜3000年のエジプトにとどまっていた。
……そして日に一度、アキラの顔を見に訪れ、昨夜は激情のまま、連れ去ってきたのだ。
だが、誰も追って来ないということは、しばらくアキラをセベクに預ける事を認める。
そういう事なのだろう……。


「アキラ……愛してる」

セベクの、滅多に口にしない愛の言葉を聞いて、アキラは強く抱きついた。

「僕も、セベクのこと愛してる」

他の夫たちに公言しているわけではないが、アキラの “ 一番 ”は、今も昔もセベクなのだ。

「こうしてふたりっきりで、ゆっくりできるなんて、夢みたい」

「そうだな……
でも、夢ではこんなこと、できないだろう?」

セベクの頭がアキラの下腹を覆い、あっという間にその口に花芯を含まれてしまう。

「あん、いきなり何を……」

幼姿が被った皮を、セベクの舌が器用に剥いていく。
ようやく姿を現したキ頭を舌先で舐め回すと、鈴口がヒクヒクと震えて透明の先走りを滲ませる。

「ぃやっ……セベク、そんなぁ」

優しく扱きながら吸われて、すでに臨界点まで到っていたアキラはか細く啼いて達してしまう。

「ぁぁん……ぁぁあ……」

白い内腿を震わせて余韻に浸るアキラに、セベクの劣情は容赦ない。
ヒトの男根ほどある指が、蕾の皺を伸ばすように触れ、捏ねるように撫でていく。

「あっ、あん……イったばかりだから、いや」

感じすぎる身体を持て余し、膝から下をバタバタと動かして形だけの抵抗をするアキラを押さえつけ、セベクの指先は蕾のなかに呑み込まれていく。
前夜も散々愛された、アキラの蕾はあっさりと口を開きセベクの指を受け入れて、喜んで蜜を分泌する。

「……口だけだな。
もっともっと善くしてやる、アキラ」

片手で軽々と脚を持ち上げ、アキラの身体の中心を引き寄せる。
そこでセベクを待ち受ける孔は、突然指を抜かれて寂しそうに口をヒクヒクさせて、雄を誘っていた。
そこを刺し貫く剛直を待ち望むアキラの、そんな気持ちを知ってか知らずか、与えられたのは太く長い舌だった。

その舌で胎内の敏感な部分を突かれて、アキラは自分の意思とは関係なく身体を痙攣させ、緩く立ち上がった花芯から蜜を吐く。

「いじわるぅ……」

「こんなに可愛がっているのに何が不満だ?」

蜜に濡れた口の周りを自らの舌で舐め取り、喉で嗤う。

「セベクぅ、すき」

「ああ、知ってる」

貫かれようとしているアキラが見つめてくる。
下腹を密着させるように腰を進め、アキラの膝を持ち上げる。
その膝が肩につくほど身体を折って、双丘の間のピンク色に色づいた蕾をあらわにした。
そこに、アキラが待ち受けているものの先端をひたりと当て、ゆっくりと圧を加えていく。

「あん、セベ……」

くちゅ、と艶めかしい音を立てて、剛直が飲み込まれていく。
ゆっくりと収められているはずなのに、アキラは悶え、また白蜜を噴き上げた。

「あぁ、だめぇ」

「駄目、なのか?」

半分ほど収まって、細かい鱗がアキラの肉筒を擦ると、またアキラの表情が変わる。

「ああっ、ぁぁん……いや、いやぁ」

「いやじゃないだろう?」

膝裏を押さえつけた手に力が篭る。
そして同時に、身体の中心に叩きつける勢いで下腹を押しつけた。
続く律動。
肌と肌がぶつかる音が響き、それにアキラの喘ぎが混じる。
セベクが突き上げるたびに、花芯から白蜜が飛び、肉筒が剛直を締めつける。

「あぁ……アキラ」

歓喜の唸り声をあげて、さらに奥まで拓こうとするセベクと、さらに一体になりたくて手を差し伸べたアキラは、このときすでに意識がなかった。
朦朧としているアキラの腰を引き寄せ、すでに解放していた脚を大きく開いて、セベクは腰を揺らめかせている。


ふたりの甘い交合が始まって、すでに3日目。
さすがに女官たちも、心配のあまり様子を伺っている。
だが、セベクはともかくアキラとて神の身。
まぐわい続けていても命に関わるような事はなく、時々挟む身を清める為の湯浴みや、繋がったままの飲食など、身を休めるとはとても言えない状態に女官たちはやきもきしていた。



「誰ぞ、アキラに衣を!」

いささかぐったりとしているアキラを女官たちに任せ、セベクは宮の中庭に向かう。
そこで彼は空と河に向かい語りかけた。

「我が眷属たち、アキラを慕う者たちよ、もうすぐそなたらが敬愛してやまないアキラがここに姿を現わすだろう。
そなたらの希望に我が応えよう。
我が伴侶、アキラに対面を許す!」

ザァーっと羽ばたきの音がして、アキラの好んだグレーの鳥……多数のハシビロコウがこちらに向かって飛んでくる。
途中の池に寄り、淡い色の大振りな蓮の花を摘んで、咥えて持ってくるものもいる。
そして河では、眷属の鰐と本来は相見えない河馬が押し合いへし合いしながら宮に近づいてきていた。
そんななか、アキラが女官に手を引かれ現れる。
身体の線が透けて見えるような薄い衣を纏い、装身具をつけたアキラがセベクの腕に飛び込んでくる。
そしてふたりは、中庭の水辺に座所を設えて食事を始めた。
大きなクッションを何枚も重ねた、ふたりの座所でアキラの好物を食べる。
そして食後の昼寝の後は、人工的に作られた池でセベクと水遊びに興じる。
そんなふたりの元には鳥たちが、また鰐たちが押しかけて来てアキラは目を丸くしている。
……今はもう、アキラがセベクたちと暮らしていた時代ではないのだが、同じように慕ってくれるものたちに破顔した。


ゆったりとした時間が流れていた。
こちらでの時間は、アキラの本来の居場所である現代では反映されない。
アキラがこうしてセベクと過ごしている時間は、向こうではカウントされない訳である。


そうしてセベクと過ごす昼下がり。
強い日差しが直接当たらないように配慮された、アラバスターの人工的な池での水浴びを楽しむふたりは、いつの間にか艶やかな雰囲気となり……唇が重なった。

ピシャリと水が跳ねる。
セベクの手が、いとも簡単にアキラを抱え上げ膝に乗せて、さらに深く口づけた。

「あ……ん、こんなところで」

唇が離れてすぐに押し付けられたセベク自身はすでに硬く張り詰めていて、下からアキラを押し上げんとする勢いだ。
そして、それを感じたアキラの胎内がじんわりと濡れてくる。

「……っ、セベクぅ」

こねるように擦りつけてくるアキラの意図を察して、セベクは喉で笑う。

「ああ、今挿入れてやる……アキラ」

申し訳程度に纏っていた、それも今は濡れて肌に張り付いている衣の隙間から手を入れ、下着を着けていなかった尻を掴んだ。

「……あん」

自らも腰を揺らめかせ、雄を誘い込もうとするアキラにセベクは低く笑う。
腰を僅かに引きアキラの腰を浮かせて、自らの摩羅を後孔に押しつけると一気に突き上げた。

自身の体重がもろにかかる形で貫かれたアキラが、甘い悲鳴をあげてセベクにしがみつく。
桜貝のような爪がセベクの肌に立てられても、顔色ひとつ変えずに彼はアキラを抱き寄せた。

「やんちゃな爪だな。愛いやつ」

「セベクぅ……」

常は慎ましやかな蕾が、セベクの摩羅を根元近くまで飲み込んで限界まで広げられている。
ふたりはぴったりと一体となり、今は動かずに抱き合っていた。

「アキラ、かわいい」

華奢な頤を掴んで、アキラに唇を重ね口づける。
セベクの獣の舌がアキラの口内を暴れ回り、喉奥の方まで犯し、行き来する。
涙目のアキラはそれだけでも昇りつめそうだったが、セベクがそれを許さない。

「自分で動いてみるか?ん?」

「あ、ああぁぁぁっ……」

水面に小さなさざ波が立ち、ゆっくりと腰を揺らめかせ始めたアキラは、肉筒を擦る快感に身を震わせる。

「セベク、すき」

「ああ、俺も愛してる」

耳許でそう囁かれて、アキラの肉筒が蠕動し、セベクの摩羅を締めつける。
拙い抽挿と蠢く肉筒にセベクは持っていかれそうになり、思わず喉で唸った。
アキラの方はと言えば、肉筒を痙攣させ絶頂を迎えんとしている。

「あっ、イっちゃ……イっちゃう」

上半身を反り返えらせ、カクカクと腰を震わせて、白蜜を零すアキラの目は硬く閉じられ、形の良い眉がひそめられている。

「あん、あん、あぁん」

結合部を自ら押し付けて、さらに快感を得ようとするアキラに、セベクはもう我慢する事をやめたようだ。

「アキラ、背中を愛でたい……」

今まで向かい合って愛を交わしていたふたりだが、セベクがアキラを持ち上げ、身体をずらした。

「あん」

セベクのものが抜け出ていく感触に、思わず身を震わせ、感じ入るアキラ。

「もっと善くしてやる」

くるりと身体を回されて、後ろから覆いかぶさってきたセベクに一気に挿し貫かれた。

「ーーっ!」

かすれた嬌声と、激しく波打つ水面。
いきなり始まった激しい抽挿に、セベクに抱きすくめられている身体がガクガクと揺れる。

「あーっ、あぁーっ、はげしい」

硬く張り詰め、滾った摩羅が狭隘な肉筒の内側を、襞を押し広げながら行き来する。
その勢いは数を増やすごとに激しくなり、結合が密着するごとに水飛沫が立つ。

「イっちゃう、イっちゃうよ……あぁん」

セベクに擦られ、ヒクヒクと痙攣する肉筒がひときわ強く摩羅を締めつける。
そしてアキラは水中に白蜜を放つ。
だがセベクはさらに強い抽挿で、イって無防備なアキラをさらに攻め立てる。

「ああっ、そんなぁ……だめぇ」

水の中で突き上げられ、池の縁に片手を添えるだけだったのが段々とせり上がり、気づくと上半身が池の外に上がってしまっている。
そんなアキラは喘ぎながら両手で身体を支えていた。

「いやぁ、もう……もう、ぼく」

激しい突き上げは的確にアキラの弱いところを擦りあげ、S字の括れを出這入りして、眼前にチカチカと光が瞬き始めたとき、突然セベクの動きが止んだ。

「あ?」

快楽に取り込まれ何も見えていない状態だったアキラが、ようやく現実に戻ってきたとき、目の前にはセベクの太い腕と、その手に握られた矢が目に入った。
その鏃の先は頭一つ手前でアキラの顔に突きつけられている。

「!?」

同時にアキラの背後の、矢を掴んだままのセベクから怒りの感情が溢れ出て広がっていく。
そして、その頃になってやっと、アキラの感情が戻ってきて、目の前の鏃の位置にショックを受ける。

「あ……あ?」

セベクの怒気は周りに居る者たちを活性化させた。
いつもは姿を見ない鰐人が茂みから、木の上から川に飛び込んでいく。
河馬や鰐が対岸に向かって泳ぎ始め、なによりも翼を持つ者たち……巨大なハシビロコウが、ある一ヶ所めがけて飛びかかっていく。
いくらもしないうちに悲鳴が聞こえてきたが、アキラはそれどころではなかった。

大きく目を見開いて硬直していたアキラが、身体を震わせ始め、蒼い瞳が涙の膜に覆われていく。
セベクの怒気がアキラへの心遣いに変わり、素早く摩羅が抜き去られ、対面で抱きしめられた。

「セ……べ、うぅ……」

ポロポロと涙を零してセベクにしがみつくアキラ。
その、震える身体を抱きしめてあやし、キスしてなだめて……彼らは姿を消した。



愚かな人間が行った行為。
たとえそれが偶然の産物だったとしても、アキラに弓を向けたヒトを、セベクは許すことが出来なかった。
……これまで数千年に渡って守護してきた、水を司る神セベク。
彼は今日この時を持って守護を放棄した。
そしてもう二度とこの時代に戻ることはなく、この地は度々の水害に見舞われる事になる、



ショックで震えが止まらないアキラを連れて姿を現したのは、現代のアキラのアパルトマン……その、セベクのための部屋だ。

「かわいいちびっこ、まずは風呂に入って身体を温めよう」

何を言っても反応の鈍いアキラを、一体どうしたら正気に戻せるのか……?

「アキラ、いい子だ」

恐怖のあまり自我を失っているのなら、忘れさせてやれば良いのだ。
セベクはその場でアキラを組み敷いた。


快楽でドロドロになったアキラの身体が熱を持つ。
恐怖も虚無も何もかもを吹き飛ばしてしまう快楽の嵐はアキラを飲み込み、荒い息遣いと嬌声しか生み出さない。

「あん、セベクもっと」

セベクの二の腕を掴み、爪を立てて強請るアキラは意識を失うまで交合い続けた。


そして目覚めたとき、はたしてアキラは……?


「セベク、ずっと僕と一緒にいてくれるよね?」

「ああ、なるべくこちらにいるようにする。
追い追い、こちらで仕事を探さなければならないだろうが、焦ることもあるまい」

水を司るセベクには、まずは祖国の治水に役立ってもらいたいと思う。
だがそれよりも大切なこと。
それはアキラが最愛の夫との生活を楽しむことだ。
……セテフたちのことを考えるとチクリと胸が痛むが、彼らは気にしないだろう。

それよりも。

「セベク……大好き」

「ああ、俺も愛してる」


この夜も十六夜の月が、ふたりを祝福していた。

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