短編
□一緒だから
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「泣かないでよ…」
聞こえるのは風の音と馬の走る音にかき消されそうなハンジの弱々しい声。
普段狂気に満ちた笑顔で巨人を倒しまくるその姿からはかけ離れ、今にも心臓の鼓動を止めてしまいそうだった。
「うるせぇ」
素っ気ない態度をとっても何も変わらない。溢れる涙は止まらないし、一刻を争う状態も変わらない。
「血、出しすぎたみたい」
ははっ、と乾いた笑い方は逆に不気味だった。
「ねぇ、泣かないでったら」
「喋るな」
お前は生きて壁に帰る事を考えろ、と付け加える。
自分の声が聞こえているのか分からない。ただ、ハンジの声だけが聞こえていた。
「本当そこまで泣き虫だったなんて知らなかった。…なんかさ、泣き虫の弟持ったみたいだね」
リヴァイが言う事はお構いなしなのか、聞こえていなかったのか。
ハンジのその声と自らの腹に回されたその腕の力だけが生きているかどうか判断できた。
だが、血を出しすぎた。
これ以上喋ると危険だ。
「だから喋るな‼︎」
いや、喋ってくれ。
言葉と心は矛盾し続ける。
生きてる証拠を出してくれ。
今度は聞こえたのか、いい加減に言う事を聞いたのか。
言葉が消えた。腹に回された腕の力が弱くなっていく。
駄目だ、やめろ、何か言え、もっと俺が潰れてもいいから強く抱きしめろ。
「一緒」
「あ?」
聞こえねぇ。
もっと、はっきり言ってくれ。
生きてるんだよな、おい。
「私らは、一緒だ。ずっと。一緒…」
以前こいつは自分の事を憎しみの塊だと自分で言っていた。
憎しみで体が動いて、憎しみで巨人を殺して、憎しみで、憎しみで、憎しみで。
そう聞いた時は頭のイカれた奴だと思ったが、酷く可哀想な奴だとも思った。
そんな奴がこんな台詞を言ってのけるとは思わなかった。
「分かった…」
だから、
その後の言葉は、飲み込んだ。