□あの日を迎えるために
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「ねえ蔵明日が楽しみだね」

そう言って華菜は左の薬指を見る。
そこには光に反射するリング。

「そうやな」

そう言って白石は笑った。
明日は2人にとって記念日になる。
しかしその日は来なかった……

それから数年後……

「久しぶりに白石のこと見たで」

謙也は町でたまたま白石に会い、その流れで家に来ていた。

「そうやろな。昨日帰ってきたところやから。今これしかないからこれでええな」

白石はそう言って謙也に紅茶が入っているコップを渡した。
「おおきに。」と言って謙也は受け取った。
そして白石は床に置いてあった大きなバッグの所に。

「昨日帰ってきたんか。今回はどこに行ってきたんや?」
「アメリカや」
「またアメリカに行ったんか?」
「広いから行くだけや」

そう言ってバッグの中に入っているものを整理する。
その荷物の中にお土産らしきものは一つもない。
謙也はそんな白石が心配だった。
親友として見ていられなかった。

「まさかとは思うけど、まだ華菜を探してるんか?」
「そうや。悪いか?」

そう言って謙也のことを睨んだ。

「悪くはないけど……」
「また華菜は死んでるとかいうんか?」
「えっとな……」
「小春やユウジもそうや、ほんまに嫌になる」
「すまん……」

謙也はその後華菜という単語を出さなかった。

本当は白石も分かっていた。
華菜がもういないということくらい。
自分が触れることのできるこの世界にいないことくらい。
でも実感がない。
どこかにいそうな気がする。
また
「蔵」
って呼んで抱き着いてきそうなのだ。
だから……

「探すんや。見つけるまでな…」

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