感謝(頂/贈)
□ささやかな幸せ10のお題をブロケビンで…
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*ささやかな幸せ10のお題をブロケビンで… /R
……prologue……
“ケビン、避暑地へ行かないか?”
真夏の蒸し暑い熱帯夜。
愛し合った後の汗をシャワーで流しながら、ブロがそう言った。
「ああ。名案だな」
素っ気なく答えてしまったが、異存など欠片もない。
元より暑くとも寒くとも、一緒に居られるのならばオレはどこでもいい。
この屋敷でも充分だが、珍しく彼が遠出に誘ってくれた……それが嬉しくて、しかし緩みきった顔は見られたくなく、先にバスルームを後にした。
確かにこの夏は猛暑日続きで、二人してややバテ気味だ。
いかに超人とはいえ、地球温暖化云々はどうにも出来ず、度を越えて暑ければそれなりに堪える。
トレーニングでも外へ殆ど出なくなったオレを見兼ね、ブロなりに気遣いをしてくれたのかも知れない。
ベッドのシーツを替えてゴロリと横たわると、先刻よりもマシな夜風が窓から入り、シャワーの後の素肌に心地好かった。
『ケビン』…名を呼ばれた気がした。
『もう寝たのか』…小さく呟くような声も聞こえたかも知れない。
彼が寝室へ戻ってきた時、オレは既に眠りの世界へ誘われていたらしい。
『おやすみ』と囁かれ、キスを交わしたのは、果たして夢か現か………
それが昨夜。
翌日には早速二人でドイツを発った。
目的のその地へ着いたのは夕刻。
ブロッケン一族の誰それが所有しているという別荘地。
山と緑に囲まれた閑静な場所で、大きな窓からは湖も見える。
「ケビン、仮面は外して大丈夫だぞ。ここには離れた場所に管理人夫妻が住む以外、誰もいないし来もしない」
ブロが手荷物を片付けながら声をかけてきた。
「あんたの一族は今年使わないのか?こんなに広大な土地なのだから、別荘も1つ2つではないだろう?しかもドイツよりはるかに涼しく快適だというのに」
「今年は貸し切りにさせてもらうと伝えてある。心配するな」
ニヤリと笑ったブロに手招かれ近付くと、ぐいと仮面を持ち上げられ、いきなり口付けられた。
「……これでは目が見えない」
「ならば早く取ってしまえ。長旅で疲れただろう、とりあえず一休みしよう」
「ああ…そうだな」
しかし離れがたく、立ったまま抱き合っているうち、なんとなく甘い雰囲気というものになり……オレ達は一休みどころか晩飯も後回しで、ベッドルームへ直行した。
ようやく『休んだ』のは当然一回戦交えた後、ベッドで再び抱き合いながら…だった。
最近は『暑いからよせ』と、同じベッドで寝ても抱きつくことすら拒まれてばかりいたが、ここで過ごす間は文句を言われずに済みそうだ。
日が落ちて夜になり、
「腹が減ったな」
とブロが言い出すまで、オレはこの『一休み』を存分に堪能した。
※※お題10で続き※※
翌朝、窓から景色を眺めていると、
「トレーニングがてら湖で泳いで来たらどうだ」
と言われ、それなら二人で行こうと無理矢理ブロを引っ張り外に出た。
空は雲ひとつない青空。
真夏だということを忘れてしまうような、春を思わせる柔らかな陽射し、ぽかぽかの天気。
爽やかな緑の匂いを乗せた風はとても清々しい。
湖の畔へ向かう途中、猫のひなたぼっこ姿を見かけ、妙に和やかな気分にもなれた。
昨日、到着した空港から乗ってきたレンタル車の助手席で、何気無く聴いていたラジオの一部をふと思い出す。
星座か何かでの今週の占いで、ラッキー度が一位だったのはオレ、二位はブロ。
『幸先良さげだな』とハンドルを操るブロが笑っていたが、きっとそれは大当りになるだろう。
少なくともオレはここへ来てから、ずっとハッピー状態だ。
湖畔に着き、
「俺はここで見ている。一人で泳いでろ」
と言ってきかない彼に、
『一人ではつまらない』『せっかく来たのに』等と不満を漏らしつつ、水着を入れたバッグを開けると、何か小さな光るものが目についた。
この色、この形は…間違いない。
何処かで落としたか何かして失くした物が見つかった……まさかこんな所に紛れ込んでいたとは。
「どうかしたのか?」
「いや、なんでもない」
彼にはなるべく秘密にしておきたいモノ。
見られたわけではないが内心ドキドキしながらバッグを掴み、近くの木陰で水着に着替えた。
水は適度に冷たく、澄んだ水中では足元付近を魚が数匹横切り、少し離れた水面で小さく跳ねた。
鳶の鳴く声で見上げた空と山との間に虹を発見した。今まで気付かなかった…いつからだろう?
以前、都会で見たビルのあいだの虹とはまるで違い、それは遠目に見てもくっきり鮮やかな七色で、大きな曲線を成している。
(こんな景色はそうそう拝めないだろうな…)
暫し見惚れてしまい、うっかり忘れていた…ブロは何をしているだろう?
見れば彼は湖畔に寝そべり、読書をしているようだったが(持ってきていたとは気付かなかった…何かムカつく)、オレの視線に気付いたのか、こちらを向いて片手を振り、
「あまり深いところへは行くなよー!」
などと、まるで親が子に注意を促すような呼び掛けをしてきたものだから、思わず笑ってしまった。
そんな心配性で優しい歳上の恋人が、オレは好きで好きでたまらない。
「なら、余所見せずちゃんと見ていろよ!何かあったらすぐ助けろ!」
大声で言い返し、とりあえずこの湖を一周しようと決め、久しぶりの水泳を楽しむことを始めた。
日暮れ前に別荘へ戻り、シャワーを浴びてからゴロゴロしていると、ブロが「今夜は早めの夕飯にしないか」と言ってきた。
異存などあるわけが無く、大賛成して飛び起きると、それならもう支度をしようという事になった。
管理人夫妻が予め用意してくれた食材や飲料は驚くほど大量にあった。
これらには昨夜も今朝も戸惑ったが、滞在中に町まで買い足しへ行く手間が省けるのは有り難い。
男のオレ達が上手く調理するのは無理だろうが、それでもあれこれ選んで組み合わせ、二人で何品かの料理をこしらえた。
味についてはお互い文句を付けないのが暗黙のルール。無論、食えないようなものを作ったことは、二人ともまだ無い。
食事とその片付けが終わり、それぞれ居間で寛いでいると、不意にブロが立ち上がった。
「どこに行くんだ?」
「少し夜風にあたろうと思ってな。おまえも来るか?」
「当たり前のこと聞くな。昼間、一人で泳がせられたんだ、夜は絶対離れてやらない」
ブロは笑って先に階段を上がって行った。
建物の屋上部分には違いないが、そこはやや広いバルコニーのような場所だった。
高めの柵に並んで凭れ、涼やかな夜風を浴びる。
昼間よりだいぶ気温は下がっていたが寒いという程ではない。
目の前にあるはずの景色は闇に隠れ、月と無数に散らばる星たちだけが光を放つ、大自然のプラネタリウム……
「あ…!」
「なんだ、どうした?!」
いきなり静寂を破ったオレの声に、ブロが即座に反応した。
「でかい流れ星、発見!」
「どの方角だ?俺には何も見えなかったが」
「もう消えちまった。残念だったな」
「残念?ここで暫く上を向いていれば幾つでも見えると思うが」
「なんだ…あんたには珍しくもないってことか」
しょげたオレに、ブロは意味ありげに笑いかけて星空を見上げた。
「残念賞のおまけでもう一つ教えてやろうか。明後日の真夜中に流星群がみえるらしい」
「本当か?それは見逃せない大イベントだ!」
オマケで一気に浮上したオレを見てブロは声を上げて笑ったが、すぐに咳払いしつつ笑いをおさめ、
「おまえに見せてやりたいと思ったのも、ここへ来た理由のひとつだからな。喜んでもらえれば俺も嬉しい」
と言いながら腰に腕を回してきた。
屋外で彼から触れてきたのは初めて……な気がする。
「…最高のバカンスだ…ありがとう」
「礼を言われたくて連れてきたわけではない。俺が勝手にこの夏の計画を立てていただけだ」
「それでも嬉しい。……この際だ、オレも話す。昼間のアレのことなんだが…」
「昼間?なんの話だ?」
秘密にしていたが、もういいと思った。
今なら打ち明けられる。
「バッグに入っていたのは、無くしたと思っていた大事なものだったんだ…去年のあんたの誕生日に贈った物、覚えているか?」
「忘れるわけがないだろう。今はトランクの中だが軍服の襟に付けている。それがどうした?」
「実は、あのピンバッジ…オレも同じのを持っていたんだ」
おそろいで何か、この世で2つしかないものが欲しかった。
何が良いか迷っていた時、オーダーメイド専門の宝飾店がロンドンにあるという噂を耳にした。
身に付けるものなら最適だ…と、その店を探し原石選びで数日通い、自分で考えたデザインを細かく指示して作らせたピンバッジ。
ダイヤモンドのスカルで目はサファイア、金具やピンの部分は白金(プラチナ)。
やっと出来上がったものの、気恥ずかしさから暫く渡せずにいたが、去年の彼の誕生日に『持っていてくれるだけでいい』と片方を押し付けた。
すると、目の前で軍服の襟に留め『ここでいいか?』と微笑んでくれたのだ。
オレは嬉しくてたまらなかった。
その時に自分の持つもう片方を見せ、お揃いだと打ち明ければ良かったが、恥ずかしさに負けて結局そのままこっそり隠し持っていた。
失くしたのは、彼に贈った数ヶ月後。去年の夏。
どこかで落としたに違いないと、さんざん探し回り紛失届も出した。
しかし全て徒労に終わり、『また別な何かを…』と思うことでどうにか立ち直れたのだ。
それが約1年後の今日、水着のバッグの中で見つかった……
そこまでたどたどしく話して俯いたオレを、ブロは黙って抱き締めてくれた。
「ガキみたいだろう?もっと言えば女々しくてバカで間抜けでクソ恥ずかしい奴だ。更に例えるなら…」
「もう余計なことは喋るな。見つかったとおまえは言うが、実際はずっと持っていたことになる」
「それはそうだが…」
「探し物は忘れた頃に出てくる、という話もよくあるだろう。そんなに悔やむなら、初めから隠したりせずどこかに付けていればいいものを」
「ああ…その通りだ。オレがバカだった」
「今夜のうちにとりあえず見せろ。おまえがすぐ決められないなら、夏の間は俺の軍服に付けておけばいい」
ブロの腕の中でオレは何度も頷いた。
「そろそろ部屋に戻ろう、ケビン。少し風が強くなってきたようだ。ランプの燃料もじきに切れる」
離れようとしたブロにオレは無理矢理しがみついた。
「なんだ、まだ何かあるのか?」
「…キスくらい、してからでもいいだろう?」
「ここでか?」
「そうだ。しないなら離さない」
顔を上げるとブロは笑っていた。
「いちいち困った奴だな、おまえは。後でもいいだろうに」
「後回しにしてまた後悔したくない」
「わかった、一度だけだぞ」
許されて、オレは自分から彼の唇を奪った。
長すぎるキスの後、
「窒息死させる気か、このバカが!」
と背中をバシバシ叩かれたが、ブロは口調とは逆に楽しげに笑っていた。
この人の笑顔は本当に素敵だと、つくづく思う。
オレが守りたいのは地球より世界より、故郷より人類よりも、彼のこの笑顔………
「なにをジロジロ見ているんだ、さっさと部屋に戻るぞ」
オレから離れたブロが、背後に吊るしていたランプを手に取り、屋内へのドアを開けて振り向いた。
「ケビン、早く来い!」
怒った顔も魅力的だ、などと言ったらブッ飛ばされそうだ。
大人しく従う方が得策か。
狭い螺旋階段を降りながら前を行くブロが、
「そんなにあの場所が気に入ったとはな」
などと言うから、それは少し違うぞ、とオレは呟いた。
「気持ちの良い風も星を見るのも好きだが、オレはあんたのそばにいるだけで幸せなんだ」
「後半は聞き飽きた。だからと熱帯夜にベタベタされるのは御免だ。ここで存分に幸せとやらを堪能しておけ。あと、明日は簡単な星座の見方を幾つか教えてやるから、夜に1つでも間違えたら帰りはおまえ、英国行きだからな」
「嫌な条件つけるなよ…」
階段を降りた所で背後からブロを抱き締め、ひとしきりごねて、もう一度キスをした。
季節や環境がどんなに変わろうとも、常に不変の心地好さは彼のそばにある。
それさえあれば他には何も要らない。
流星群に願い事は出来るのだろうか?
明日の夜、聞いてみよう。
バカンスはまだ始まったばかり
………END………
後日談を別途追加したいかもです
使用したお題10
(順番は動かして良いということでしたが、敢えて上から順に無理矢理こじつけています)
ぽかぽかの天気
猫のひなたぼっこ
占いが一位
見つかる落とし物
ビルのあいだの虹
流れ星発見
おまけでもう一つ
おそろい
あの人の笑顔(あの→この、に変更)
そばにいるだけで
※お題が可愛い感じで、うちのブロとケビには無理が…以下略
※配布元様はリンク不要とのことで記しておりません