BLEACH短編
□桜が満開に咲く頃
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日差しが高くなった昼下がり。今日も六番隊の隊舎は、静寂に満ちている。六番隊隊長である白哉は、ただ何を言うでもなく、黙々と書類に筆を走らせていた。
ボーンと時計の鐘を鳴らす音が聞こえて、白哉はふと、筆を止めて13時を告げる時計を見る。
(恋次が戻るのはもうすぐか……)
約1時間ほど前に、笑顔で昼休憩に入りますと隊舎を飛び出した副隊長――恋次を思い出す。
恋次が戻ったら、次は自分が昼休憩をとろうか
そう考えていた刹那。ドタバタと騒がしい足音が聞こえて、白哉はぴくりと眉を震わせた。
その足音は徐々に隊首室へと近づいて大きくなっていく。そして、扉を壊さんばかりの勢いで隊首室の扉が開け放たれたとともに、聞きなれた声が耳に届いた。
「――兄様!」
開け放たれた扉の先には、義理の妹――ルキアの姿。
「……静かに入ってこれぬのか、ルキア」
「も、申し訳ありません!」
「次からは気を付けるがよい。……で、用件は何だ」
白哉はそう言って、書類を1枚手に取った。手にした1枚の書類の字は辛うじて読むことはできるものの、酷く雑に書かれた字だ。その書類の差出人欄には、"阿散井恋次"と名前が書かれている。書類は丁寧に書くようにと再三伝えていたはずなのだが、どうやら彼は字を書くのがあまり得意ではないらしい。白哉は小さなため息をついた。
書き直させるか、と書類を机の上に置くと、白哉はルキアに視線を戻した。
「柑奈姉様が――……」
ルキアの口から出た名前に、白哉は思わず眉間にしわを寄せる。
「今、何と?」
「で、ですから……柑奈姉様が倒れられました…!」
白哉が勢いよく立ち上がり、ガタンとイスが大きな音を立てた。
いつになく焦っている表情で、
「今はどこにいる……!」
と、声を荒げて問う白哉にルキアは戸惑いながらも、
「い―今は四番隊におります!」
と、答えた。
――柑奈姉様が倒れられました…!
ルキアの言葉が頭の中で木霊する。
思えば、これほどまでにルキアが慌ただしく白哉のもとを訪ねてくること自体、珍しいことだった。
緋真が亡くなって以来。再婚はしないと誓い、この何百年と独り身でいた白哉は、緋真と同じように優しく笑う柑奈に恋にも似た感情を抱いたのだった。
そんな二人が結ばれて5年。妻、柑奈が倒れたと聞いて、白哉は居ても立っても居られない様子で、ルキアの制止する声も聴かずに隊首室を出る。
「あっ、隊長! ただいま休憩から戻……」
「恋次」
「は、はい!」
隊舎を出る途中ですれ違った恋次の言葉を遮る白哉の顔は、いつになく眉間にしわが寄っている。
午前中に提出した書類にミスでもあったのだろうか、と不安な思いが駆け巡って、恋次は思わず後ずさる。
そんな恋次に気にも留めず、白哉は恋次の肩に片手を乗せた。
「しばし、席を外す」
「……へっ?」
恋次は、素っ頓狂な声を漏らす。
「では、後は任せたぞ」
状況がいまいち理解出来ていないのか、呆然としている恋次にそう言い残すと、瞬歩を使わんばかりの速さで四番隊舎へと向かった。