BLEACH短編

□ひとつの願いごと
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(人間って面倒くさいな……)
 そんなことを考えながら、柑奈は溜息をついた。
 喜怒哀楽だけでも十分に煩わしいというのに、更にそこに嫉妬やらなんやらと、感情が複雑に入り乱れてしまって、本当にややこしいことこの上ない。
 かく言う自身もその面倒くさい人間ではあるのだが、それを棚に上げて、彼女はそう思うのだった。
(恋心って本当に厄介!)
 考えれば考えるほど募っていく不安を紛らわすように、ただひたすら手元にある本のページをめくっていく。
「……」
 しかし、いくら文字を追っても、文字は全く頭に入ってこなかった。それどころか、先ほどからずっと同じところで目が留まっているような気さえする。
 柑奈はふと目にとまった文章を指でなぞる。それは、主人公の少女が恋人のためを思って身を引くシーンだった。
「……っ」
 幾度となく読んでいるはずなのに、胸の奥がきゅっと締め付けられる感覚に陥る。
(私もこんな風に潔く諦められたらいいんだけどなぁ……)
 柑奈は再び深い溜息をつくと、本を閉じて机の上に置いた。それから頬杖をつき、ぼんやりと一点を眺める。
 悩みの原因である幼馴染、黒崎一護の机だ。
 登校してきて早々、転校生の朽木ルキアとともに教室を出て行った一護の姿を見送り、今に至る。その間、彼らは一度も戻ってきてはいない。
「一護の馬鹿」
 ぽつりと呟いた声は、誰の耳に届くこともなく宙に溶けた。
 一護とは、幼馴染みであると同時に、つい最近想いを交わし合ったばかりの関係でもあった。
 幼い頃から一緒だったせいか、柑奈が一護のことを恋愛対象として意識したことはなかったのだが、ある日、一護の方から「好きだ」と言われて初めて自分の気持ちに気づいたのだ。
 そうして、二人は恋人同士となったわけだが……。
(一護はいつも、朽木さんと何をしてるんだろう)
 ルキアが転校してきてからというもの、一護は彼女とばかり一緒にいた。
 休み時間や放課後、時には授業中でさえ、突然ルキアと二人でどこかへ行ってしまうことが多くなった。更には、デート中にどこからともなく現れたルキアが、一護を強引に連れ去ってしまうこともあった。
 その度に彼女は、「すまない」と言い残していくのだが、それが何に対して謝っているのかは分からずじまいだ。
「一護なんて、ショートケーキの上にでも乗せられちゃえばいいんだ……」
 そう言って、柑奈が机に突っ伏した時だった。
「おいコラ、柑奈!」
「ふぇっ!?」
 耳元でいきなり怒鳴られて、思わず飛び上がる。
 振り返ると、そこには眉間にシワを寄せたもう一人の幼馴染、有沢竜貴の姿があった。
「あ、竜貴……。おはよう」
「おはよ」
 柑奈の挨拶に短く答えると、竜貴は呆れた顔をしながら彼女の前の席に腰掛ける。
「……で?」
「え?」
「一護となんかあった?」
「っ……」
 唐突な問い掛けに、柑奈の動きが止まる。
 何故、今の悩みの原因が一護にあるとわかったのだろうか。
 柑奈は不思議そうに首を傾げた。
「なんでわかったのかって?」
「う、うん……」


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