BLEACH短編
□桜が満開に咲く頃
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「柑奈……!」
「あらあら、これは朽木隊長ではありませんか」
息を切らせて四番隊舎に訪れた白哉を迎えたのは、四番隊隊長を務める卯の花だった。
慌ただしく隊舎に入ってきた白哉には、いつもの落ち着いた雰囲気がまるでない。そんな彼を見た隊士は驚きを隠せない様子で白哉を見ているが、卯の花は特に気にする様子もなく微笑んでいる。
「…柑奈は?」
白哉の言葉に、卯の花は踵を返して歩き出す。どうやらついて来いということらしい。卯の花について歩いて行くと、ある一室の扉前で卯の花は歩みを止めた。
「このお部屋に」
「柑奈は大丈夫なのか?」
「えぇ。今は安静に寝ておられますよ」
「そうか……」
安堵した様子の白哉をみて卯の花は、くすっと笑う。
「……なにがおかしい」
白哉は少し霊圧を上げて笑ったままの卯の花を睨んでみるが、
「貴方らしくないものですから」
と言って、卯の花は怯む様子はない。尤も、長年隊長を務めている人なのだから、白哉が霊圧を少し上げたからと言って怯むわけもないのだが。
「……悪いか」
「いいえ。寧ろ、喜ばしいことです」
「そうか……」
「えぇ、とても――」
とても感情豊かになりましたから
そう続けて、卯の花はくすくすと笑う。前妻の緋真を亡くしてからというものの、白哉は一層笑わなくなっていた。もともと感情を表に出すことが苦手だった彼は、それ故に誤解を受けることも多かったのだ。
そんな彼が、僅かではあるものの感情を表に出している。それは柑奈という存在のおかげと言っても過言ではない。二人をよく知る卯の花にとって、それはとても良い傾向と言えるのだった。
「卯の花隊長!」
卯の花を呼ぶ声に、二人は振り返る。そこには、今にも泣きそうな顔をした山田花太郎が立っていた。
「山田第七席、どうされましたか?」
「と、討伐に出ていた十一番隊の隊士が…は、運ばれてきたのですが……」
「また、ですか……」
「えぇ……また、です。そ、それでですね……治療はいらないと暴れて手に負えなくて……」
花太郎の言葉に、卯の花は深い溜息をつく。
「――十一番隊の皆さんには、少し…言い聞かせなければならないようですね?」
そう言って満面の笑みを浮かべる卯の花をみて、花太郎はひぃっと悲鳴を上げる。
「山田第七席。」
「は、はいぃ!」
「少し先に行っててくださいますか?」
「わ、わかりましたぁっ…!」
それでは失礼しますと叫んで、花太郎はパタパタと走り去っていく。
「朽木隊長」
名前を呼ばれて、白哉は卯の花へと視線を戻す。白哉の目に写った彼女の背後には、どす黒いオーラが見えているような気がするのだが、きっと気のせいではないだろう。
「私は十一番隊の治療に向かわなければなりませんので……」
「……あぁ」
「それでは、これで」
軽く会釈をして、黒いオーラを身に纏ったままその場を去る卯の花の背中を見届けて、白哉は柑奈が眠っている部屋に入るべく、ゆっくりと扉を開けた。