BLEACH短編
□桜が満開に咲く頃
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部屋に入ると、ベッドの上で柑奈は規則正しい寝息をたてていた。
柑奈を起こさぬようにと静かにベッドの隣に立つ。白哉の目には彼女の幼い寝顔が映った。
「心配かけさせておいて、呑気なものだな……」
白哉はそう独り言ちる。
ルキアが慌てた様子で報せてくるものだから、ただごとではないと焦りを感じて飛ぶように来てみたものの、どうやらそれはただの心配損だったらしい。
尤も、彼女の身に何もないことは一番望ましいことだ。心配損であったことを喜ぶべきなのだろう。
(――こうしてみると、私とあまり歳が変わらぬというのが信じられないな)
白哉は、柑奈の髪をそっと撫でた。さらりと揺れる髪がくすぐったかったのか、彼女は少し身じろいだ。
そのすぐ後で、柑奈の眉がぴくりと震わせたかと思うと、かすかに吐息を漏らしながら柑奈ゆっくりと瞼を開けた。
「……びゃ、くや?」
その声は少しばかり掠れている。
まだ意識もはっきりしていないようで、うつらうつらとしている彼女に白哉は、
「馬鹿者」
と、言って柑奈の額を軽く叩く。ぺちっという軽い音が響いたつかの間、柑奈が小さな悲鳴をあげた。
柑奈はゆっくりと身体を起こすと、痛いじゃないですかと口を尖らせる。尤も、白哉は手加減して叩いているのだから、痛いはずはないのだが。それでも彼女は、痛いと言って額をさすっている。
「……私に余計な心配をかけさせた罰だ」
「えっ、心配……?」
柑奈はきょとんとしてぱちくりと目を瞬かせる。それは、白哉が自分のことを心配してきてくれたとは微塵にも考えていなかったと言わんばかりの驚きようだ。白哉は、そんな彼女をみて心外だと言いたげに眉を顰める。
「妻が倒れたと聞いて心配しないほど、さすがの私も冷酷ではないが」
「……そ、それはそうですけども」
確かに白哉は、隊長の中でも感情が読み取れない無表情な人ではある。だからといって、だれがいつ冷酷だといったというのか。
(――冷酷と言った覚えはないのだけど)
柑奈は、出かけたその言葉をそっと飲み込んだ。
「それに、柑奈が倒れたとルキアが血相を変えて報せに来たのでな」
「あらまぁ……」
「それで、倒れた理由はなんだったのだ?」
白哉の問いに、柑奈は「えっと……」と目を泳がせた。
「……柑奈?」
「た、ただの……貧血です」
柑奈の言葉を聞いて、白哉は深いため息をこぼす。そんな彼に柑奈は、申し訳なさそうな顔をして頬を掻いた。
「あ、でも……卯の花隊長にはこっぴどく怒られてしまいました」