BLEACH短編
□桜が満開に咲く頃
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「……怒られた?」
「えぇ。それはもう…こっぴどく!」
とっても怖かったんですから
そう言いつつも、柑奈はくすくすと笑う。その様は全く怖がっているようには見えない。寧ろ、白哉の目には柑奈は楽しんでいるように見えた。
「貴方一人の体ではないんですから無茶なことはやめなさい、って」
柑奈の言葉に、白哉は目を見開く。
今、彼女は何と言ったのか。聞き間違いではないのか?
そんな疑いたくなる気持ちをぐっとこらえて白哉は、へらへらと笑っている柑奈を見て、先の彼女の言葉を繰り返した。
「"貴方一人の体ではない"……だと?」
「はい…。でも、確かに卯の花隊長の言う通りです。気を付けないといけませんね」
「――どういうことだ?」
白哉がそういうと、
「まさか……ルキアから聞いていないのですか?」
と、柑奈は目をぱちくりと瞬かせた。
「何をだ」
「私が妊娠したことを、です」
「妊娠……?」
「えぇ、もう3か月目だそうですよ」
そこまで言って柑奈は、いまいちピンと来ていない様子の白哉を見て、そこで漸く彼の言動の理由が分かった気がした。
「まさか、とは思いますが……」
柑奈はずいっと白哉に近づくと、白哉の頬をむにっと抓まむ。こんなことができるのは、あの四楓院夜一を除いては彼女くらいなものだろう。
――否、たとえ四楓院夜一が白哉の頬をつまめたとしても、こうしてなすがままでいるのは彼女くらいだ。
「ルキアの倒れたって言葉だけ聴いて、焦ってその続きを聞かずにきましたよね?」
言葉を返さない白哉に、やっぱり、と言って柑奈は続ける。
「ルキアが倒れた私を四番隊まで運んでくださったのですが…。卯の花隊長から懐妊していると聞いた瞬間、兄さまに伝えて参りますと叫んで私の制止する言葉も聴かずに走り去っていったのです」
まさか貴方も人の話を聞かないで飛び出すだなんて……
柑奈は呆れたように笑う。白哉の頬を抓まんでいた手をそっとおろすと、自身のお腹をそっと撫でる。
「――本当にお二人は似ていらっしゃいますね」
「……そのようだな」
「まったく……生まれてくるこの子もお二人に似てせっかちになったらどうしましょう?」
そんな柑奈の言葉を聞いて白哉は、自身のお腹に手を当てている彼女の手に自分の手を重ねた。
触れた彼女のお腹に我が子がいる。――その喜びが、白哉にはなかなか表に出すことができないで、
(……もしこれが恋次なら、大袈裟に飛び跳ねて喜ぶのだろうな)
そんな自虐的な思いすら生まれてくる。それでもきっと柑奈には、白哉がいかに喜んでいるかは伝わっているはずだ。現に彼女は、私も幸せです、と笑っている。
「生まれてくるのは、桜が満開に咲く頃……か」
「……そうですね」
「名前を……考えねばな」
近い未来、訪れる幸せを想像して白哉は口角を上げた。それはそれは、とても幸せそうな顔だった。