BLEACH短編

□夫婦の契り
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「もう、邸のものに気づかれた頃かしら」

柑奈は邸のものたちが自分を慌てて探す風景を思い浮かべた。
きっと、屋敷中を走り回っているに違いない。

「白哉様はきっと私が消えたとしてもなんともないのでしょうね」

自分で言って悲しくなって涙が出てきた。
大きな桜の木の下に腰をかけ、柑奈は静かに涙を流す。
5年前まで、柑奈に向けられた優しい声を思い出しながら。

「びゃ、くや様ぁ…うっ、ひっく…!」

昔はよくこの桜の木の下でお花見をしていた。
白哉と付き合うことになったのもここ。
白哉からプロポーズを受けたのもここ。
柑奈にとってこの大きな桜の木は思い出のたくさん詰まった場所だ。
しかし、白哉にとってはそうではないだろう。
仮に白哉が柑奈を探していたとしても、白哉がここにくることだけはないだろうと考えた。
しかし、その考えは優しい声と優しい温もりによって、まるで桜の花びらのごとく儚く散った。

「柑奈…」
「え…!?」

心地よい低い声。
心地よい香り。
白哉に間違いない。

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