BLEACH短編
□紅色に染まるキミ
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「恋次のバカ!」
「あ?! んだと?!」
千ヶ崎柑奈は、彼氏である阿散井恋次と朝早くから喧嘩をしていた。二人の喧嘩の理由は、端からすればとても些細なこと。
しかし、それは千ヶ崎にとってはとても重要なことでもあった。
「――チッ……。テメェの顔なんざ、見たくもねェ。どっかいっちまえ!」
恋次から出たその言葉に、柑奈は思わず泣きそうになって顔を歪めた。今にも涙が溢れそうではあったが、恋次の前では絶対に泣くまい、とぐっと堪えて下唇を噛む。
そして、売り言葉に買い言葉というやつか、
「わ、私だって……アンタみたいな浮気男、願い下げよ!」
と、叫んで恋次とお揃いで右手の薬指に嵌めていた指輪を外して、恋次めがけて投げつけたのだった。
その指輪は、二人が付き合ってからちょうど1年を迎えた記念の日に、恋次がお祝いにとプレゼントしてくれたもの。いつか必ず本物の指輪を送るから、と恋次がいつになく真剣な表情で、そう告げてくれたのをよく覚えている。柑奈もその恋次の言葉を信じて、大事に指輪を右手の薬指に嵌めていた。
そんな大切な指輪を投げつけるということは、柑奈が別れを切り出しのだと判断しても無理はない。
「そういうことかよ」
「なによ……」
恋次は、足元に転がった指輪を拾い上げて、
「お前が別れてえってなら、文句言わねぇ。――好きにしろ」
と、吐き捨てた。
「――恋次なんか、大っ嫌い!」
そう叫んだ柑奈は、流魂街へと飛びだす。
「何よ、何なのよっ………」
流魂街に辿り着いた柑奈は、恋次が追いかけてくれるのではないかと期待して後ろを振り返る。しかし、そこに見えるのは瀞霊廷を囲う真っ白な壁だけ。
「………私はただ、恋次に構ってほしかっただけなのに」
"お前が別れてえってなら、文句言わねぇ。好きにしろ"
別れ際の恋次の言葉が頭の中で反芻して、涙が溢れて視界がじわりと滲む。
(こんなに好きでいたのは自分だけ? 結婚しようなって言ってくれた恋次の言葉は嘘だったのかな……?)
そんな疑問が湧いてきて、"何故こうなってしまったのか"と一人で考えてもみたが、答えは一向に出なかった。
「恋次なんて……恋次なんて、大っ嫌いなんだから……!」