BLEACH短編

□紅色に染まるキミ
1ページ/8ページ



「恋次のバカ!」
「あ?! んだと?!」

 千ヶ崎柑奈は、彼氏である阿散井恋次と朝早くから喧嘩をしていた。二人の喧嘩の理由は、端からすればとても些細なこと。

 しかし、それは千ヶ崎にとってはとても重要なことでもあった。

「――チッ……。テメェの顔なんざ、見たくもねェ。どっかいっちまえ!」

 恋次から出たその言葉に、柑奈は思わず泣きそうになって顔を歪めた。今にも涙が溢れそうではあったが、恋次の前では絶対に泣くまい、とぐっと堪えて下唇を噛む。

そして、売り言葉に買い言葉というやつか、

「わ、私だって……アンタみたいな浮気男、願い下げよ!」

 と、叫んで恋次とお揃いで右手の薬指に嵌めていた指輪を外して、恋次めがけて投げつけたのだった。

 その指輪は、二人が付き合ってからちょうど1年を迎えた記念の日に、恋次がお祝いにとプレゼントしてくれたもの。いつか必ず本物の指輪を送るから、と恋次がいつになく真剣な表情で、そう告げてくれたのをよく覚えている。柑奈もその恋次の言葉を信じて、大事に指輪を右手の薬指に嵌めていた。

 そんな大切な指輪を投げつけるということは、柑奈が別れを切り出しのだと判断しても無理はない。

「そういうことかよ」
「なによ……」

 恋次は、足元に転がった指輪を拾い上げて、

「お前が別れてえってなら、文句言わねぇ。――好きにしろ」

 と、吐き捨てた。


「――恋次なんか、大っ嫌い!」

 そう叫んだ柑奈は、流魂街へと飛びだす。

「何よ、何なのよっ………」

 流魂街に辿り着いた柑奈は、恋次が追いかけてくれるのではないかと期待して後ろを振り返る。しかし、そこに見えるのは瀞霊廷を囲う真っ白な壁だけ。

「………私はただ、恋次に構ってほしかっただけなのに」

"お前が別れてえってなら、文句言わねぇ。好きにしろ"

 別れ際の恋次の言葉が頭の中で反芻して、涙が溢れて視界がじわりと滲む。

(こんなに好きでいたのは自分だけ? 結婚しようなって言ってくれた恋次の言葉は嘘だったのかな……?)

 そんな疑問が湧いてきて、"何故こうなってしまったのか"と一人で考えてもみたが、答えは一向に出なかった。

「恋次なんて……恋次なんて、大っ嫌いなんだから……!」


次へ  

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ