BLEACH短編

□長い片想いに終止符を
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 静まり返った執務室に、ボーンボーンと時間を告げる鐘が鳴り響く。鐘の音に時間を確認してみれば、時計の針は19時を指示している。

 柑奈は、終業時間からひたすら走らせていた筆を机の上において、両手をあげて背伸びをした。長時間、背を丸めていたせいか、背骨がポキポキッと小さな音をたてる。

「柑奈、おつかれ」

 静かな部屋に響いた低めの声。

 視線を向ければ、九番隊副隊長――檜佐木修兵が紙袋を片手に立っていた。

 その紙袋は、瀞霊廷で有名な甘味処のもの。修兵と仲の良い後輩――阿散井恋次が、其処のたい焼きをよく買っていたためによく記憶に残っている。

 そして、柑奈の記憶が正しければ彼は、今朝出勤した時にそんなものは持っていなかったはずだ。そして、昼食に出かけた彼が、ソレを片手に戻ってきた覚えもない。――であれば、いつソレを買ったというのか。もちろん、昼間にはなかったものなのだから、それを購入したのが終業時間以降だろうことは簡単に想像がつく。

 だが、彼がいつ執務室を出て行ったのか、そこが全く思い出せなかった。いくら記憶を思い返してみても、修兵が一度執務室を出て行ったという記憶がないのだ。

「――何ソレ」
「甘味処の紙袋」
「それは見たらわかるわよ」

 そう言って柑奈は、気怠そうに頬杖をつく。

 彼女の言わんとしていることが分かったのか否か。修兵はニヤリと微笑を浮かべると、紙袋に右手を入れる。

「お前甘いモン好きだろ?」
「そうだけど……」
「残業、付き合わせちまったお礼」

 紙袋から引き抜かれた右手に握られていたのは、ほんのりと甘い匂いを漂わせているたい焼きだった。

「……たい焼き」
「おう。ちょうど恋次がいたから何が美味いのか聞いたんだけどよ、たい焼きが一番だって笑顔で言うからよ」
「でしょうね……」

 彼はたい焼きが大好物なのだから、そう答えるのは目に見えている。そんな彼に、何がおいしいのかと質問する方が間違っているのではないか。

 そう柑奈は感じたが、口にするのはやめておいた。

「……私、どっかの駄犬さんじゃないのだけど?」
「まあ、そういうなって!」

 ニカッと笑って頭を撫でてくる修兵の姿に、ドキッとしたのはきっと、柑奈が彼のことを思っているからに違いない。

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