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□俺と声が出ない彼女1【伊月俊】
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席に座り、荷物の整理をしていると隣に誰かが座った。
見る限り隣の子は女子だ。
また煩く喋りかけてくるだろうと俺は思った。
だが彼女は荷物の整理をし終わったら前を向いて待っていた。
今までクラスの女子は隣になると“よろしくね、伊月君!”とか“伊月君と隣だ!やったー!”とかはしゃぐのが普通だった。
不思議に思った俺は自然に彼女に話しかけた。
「あの……さ。」
『!』
彼女は俺の声に反応してこっちを振り向く。
その瞬間、俺は目を見開いてしまった。肩より長く綺麗な黒髪。透き通るような水色の瞳。こんな子がクラスいるなんて俺は初めて知った。
彼女は筆箱のなかにある紙を取り出して何かを書き始めた。
書き終わったのかその紙を俺に渡した。
その紙を見てみると綺麗な字でこう書いてあった。
“苗字名前です。よろしくお願いします。”
と書いてあった。
「苗字さんか、俺は伊月俊。よろしく。」
俺は笑顔で彼女に言った。
すると彼女もニコッと笑った。
そう言えば“苗字名前”ってどっかで聞いたことある、と俺は考え始める。俺はふと思い出す。
このクラスには声が出ない女子がいる
と。
その子の名前は苗字名前
と。
そう、彼女が声が出ない女子なんだ。
「ねぇ、苗字さん!」
『?』
「その筆箱、ナイスじゃないッスか?」
俺があいさつかわりに言った。だいたいの子はこれで逃げていく。
でも彼女は笑ってくれた。
凄く嬉しかった。俺のダジャレで笑ってくれるとは思ってなかった。
彼女はまた紙を取り出し、書いて俺に渡した。
“伊月君のダジャレ、面白いね!”
こんな短い一言でも俺は最高に嬉しかった。
俺はこのときから彼女に恋をしたのかもしれない……。