目は口ほどに物を言う
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水滴が瞼を打って、僕は生暖かい微睡みの中からゆっくりと浮上した。
空から、涙が降ってくる。
ポタポタと、涙が降ってくる。
辺りは雨雲で薄暗く、地面はありとあらゆるゴミで覆い隠されていた。
僕が転がされていたのは、そんなゴミ山の最も高い場所。
傍らには僕の相棒絶対微妙≠ェ転がっていて、辺りには身体中から大量に溢れた血が広がっている。
「オイ、アンタ生きてるか?」
白い防毒マスクで顔を隙間なく覆った数人の男達が近付いてきて、僕に生死確認をしてくる。
「あー…、うん。
生きてるよ」
僕が片腕を上げると、男達は僕の出血量に気付くとこちらに駆け寄ってきた。
薄汚れた担架に僕を載せて、どこかへ運んでいく。
「抵抗しないんだな、アンタ」
「僕ねぇ、もう殺ること全部殺ったからさ。
後は家賊に、会うだけなんだよ」
暴力の世界を暴力をもってして、ことごとく全て総て統べて等しく老若男女容赦無く殺して解して並べて揃えて晒してやった。
これだけ出血してて、もう僕は助かりそうもないし。
後は本当に、家賊に会うのを待つだけ。
死ぬだけ。
「アンタ、満足そうな顔して死ぬの待ってるトコ悪いけど。
血なら止まってるみたいだぜ?」
「………………は?」
僕はその言葉に一瞬硬直して、ガバッと身を起こした。
骨が折れてる部分が激しく痛んだが、傷口からの出血はなかった。
「そんなバカな」
「アンタどういう身体してんだ」
「そんなの僕が聞きたいよ」
どうなってんだ、何で僕死んでないの?
つーか傷口があるのに血が出ないってのは何?
僕のパニックを他所に、男はテキパキと治療を進めた。
治療といってもそれは、軽く消毒を施してそれほど清潔でない包帯を巻き、折れた腕を吊るすだけのものだったが。
それらを済ませられた僕は、早々に建物からほっぽり出されてしまった。
いや、今はそれはどうでもいい。
何故死なない。
僕が流した血の量は確実に致死量だ。
結果的に敵討ちは出来たが僕の損傷は甚大で、暴力の世界の壊滅と引き換えに僕は死に沈んだ筈だったんだ。
「…まさか」
まさか、奇跡だとでもいうのだろうか。
生憎と僕は無神論者だ。
神の奇跡なんてものは信じたことなんて一度もない。
…まぁだからって、生き返ったからもう一度死にたい訳じゃないんだけどね。
零崎として家賊のために命を賭して戦い、そしてその果てに賭けた命を散らすことは悪ではない。
だからこそ僕はそれを選び、結果として死を迎えた。
しかし運が良いのか悪いのか生き残ったとして、それもまた家賊のための行為の結果だ。
それなら僕が、零崎奇識ではなく零崎浮世がすべきなのは。
「生きよう」
──生きてみせるよ人兄ぃ。
僕は人兄ぃとお揃いに染めた銀色の髪を耳にかけて、人兄ぃのような笑みを浮かべた。
人兄ぃは今頃どこで何をしているんだろう。