story 1
□girls talk,boys talk
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side girls
女性達の和やかなお茶会に、恋の話は付き物だ。
吹雪に閉ざされこの寒さでは鍛練の一つも出来ずエスリンの提案で集まった茶会の席で、自然と話は色めいた方に向かう。
おおよそこの話題に似つかわしくない点に於いて一、二を争うブリギッドが言った。
「あたしは自分より強い男じゃないと願い下げだね」
その言葉にティルテュが反応した。大袈裟に身を乗り出して力説する。
「そんな事言ったら限られちゃうじゃない!ブリギッドは強いんだから」
確かに…と思いながらエスリンが当てはまる人物を思い浮かべる。
既婚者は省いて、ブリギッドより強い男…確かに数人しか思い当たらない。
「ブリギッドより強い男と言ったら…ジャムカ王子?ホリンも剣士じゃピカ一の腕よね。キュアンは駄目よっ」
「人の男にも興味ないよ」
おどけて言ったエスリンに金髪の双子の女神の片割れはにぃ、と笑う。
顔はそっくりなのに、エーディンとはまったく違う表情をする。
「あっ意外とホリンはイイかも。顔良いし、美男美女!でも愛想ないオトコはあたし駄目ー」
ミーハーなシルヴィアが軽いノリで言うとすかさずティルテュが突っ込んだ。
「シルヴィアの相手の話じゃないってば…あなたにはアレクがいるじゃない」
シアルフィの陽気で気さくな騎士とシルヴィアが仲良く話しているのは誰もが見かけた事のある光景で、皆もうんうんと頷く。
しかし当のシルヴィアはきゃらきゃらとおかしげに笑った。
「えーアレクは…ちょっとねえ?」
「あら違ったの?」
不思議そうに聞くラケシスに、少し考えてシルヴィアは曖昧に返事をした。
「うーん…友達としても恋人としてもいい男だけど、結婚するとなると…騎士様って私には合わないな。シグルド様第一!って感じじゃない?あんなやつでも。あたしはあたしを一番にしてくれる人がいいなぁ」
あんなやつとはひどい言われようだが、軟派に見えてもアレクは忠義に篤い騎士だ。
万一恋人と主君と選べと言ったら、彼は主君を選ぶだろう。だから軟派な風を装い相手を一人に絞らない。
「そういう点で言ったら、エーディンが羨ましい。ミデェールは公私ともにエーディン第一だもんね?」
この場でエスリンと共に既婚であるエーディンは穏やかに笑う。
「そうね…嬉しい事だわ。逆に言うと、レヴィンにとってのフュリーもそうよね?」
聖女の微笑みを向けられた真面目な天馬騎士の顔に朱が走った。
「そ、そんな…私は…」
「今さら隠さなくたって、ここに来て日が浅い私にもバレバレなのに」
羞恥に小さくなるフュリーに追い討ちをかけるティルテュは楽しそうだ。
…と、ラケシスが今まで一言も発していない黒髪の女性に目を向けた。
「アイラも結婚するなら自分より強い男なの?」
その言葉に女性全員の目がイザーク王女に向いた。
ブリギッドと並んで、この話題に似つかわしくないもう一人。
アイラはふむ、と考えながら一口茶を口にする。
「――そうだな。強い男だ」
「じゃあ…やっぱりホリンみたいな?」
アイラと並んで鬼神の如き強さを誇る剣闘士の名に、彼女は首を振った。
「あやつは強いが、家庭を築くには理想ではない」
「じゃあレックス」
「少し違うな」
淡々とした応えにシルヴィアが肩をすくめた。
「わからないわね…そもそも、結婚する相手の理想ってあるの?」
アイラの好みの男が想像がつかない。
あまりにも恋愛において無頓着な印象が強いからだ。
…だが。
「――理想と言われて思い浮かぶのは一人しかいないな」
この発言に、周り中がぎょっとした。
一人しかいない。
…という事は、現実に一人、理想となる男がいるのだ。
浮いた話一つ、聞いた事のなかったこの女剣士に。
互いに誰がその先を問うかと押し付けあう空気が流れる。
その微妙な空気も素知らぬふりでアイラは茶を飲み干して席をたった。
「すまぬが、約束があるので先に失礼しよう。楽しい一時だった」
このままでは彼女の浮いた話を聞き逃してしまう。
意を決したティルテュが口を開いた。
「待って!アイラの結婚相手の理想って……誰?」
ごくり。
女性陣の期待に満ちた視線を知ってか知らずか、アイラは僅かに笑った。
「ノイッシュだ」
さらりと告げられた名前に皆がざわめいた。
何故ノイッシュ?
確かに顔は良い。
優しい。
血筋は高貴な家柄ではないが、シグルド公子の側近であるから不足はない。
頼りにもなるし、決して浮気はしないだろう。
…そう考えたら確かに結婚相手としては悪くない気がしてきた。
そんな女性達を横目にでは、と言って部屋を出ようとしたアイラが振り返った。
「…結婚相手の理想、とは言ったが、正しくは結婚相手だ。これから共にシグルド殿に結婚の了承を取りに行く」
そのまま出ていく女性を見送った三秒後に、シルヴィアとティルテュとエスリンの、「ええええ!?」という叫びが響いた。