冥王星にさよなら

□神様はくそったれ
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─全てを見届けよ、

何のだよ。
頭に響くその声に独りごちる。
一日に数回聞こえる声に、返っては来ない言葉を返しながら朝の身支度をする。
朝食を食べ、身なりを整え、洗濯物を干す。
決まりごとになっているそれらを淡々とこなしながら、ぼんやりと最近聞こえるようになった「全てを見届けよ、」と云う台詞の意味を考える。
聞こえだしたのは、1ヶ月前。初めは、とうとう頭がおかしくなったのか、と思ったがそう云うわけでもなく。ただ、ただ、その声が聞こえた。大切な主語が抜けている台詞に疑問を抱きながら、今日も私は生きている。

─全てを見届けよ、

また、聞こえた。
先ほどの声から、まだ30分も経っていない。今日は、早いなと思いながらボリボリと頭を掻く。
「全てを見届けよ、」と台詞の意味はよく理解出来ないが、何故だかそれは壮大なものを示しているような気がする。根拠はない。だが、私の野生の勘がそう告げている。
私には、生憎誇れるものが何もないが「己の勘」だけには自信があった。
出来れば、当たって欲しくはない。
私は特別な生活なんて求めとはいないのだから。当たり前を、当たり前として、過ごす。それだけで、十分なのだ。

「よし、行くか」

今日もまた、一日が始まる。早く休みにならないかなと思いながら玄関を開けた。

─帰りにDVDを借りて帰ろう

何気なく思ったそれを私は、果たすことが出来なかった。


金色の蝶が、一斉に私目掛けて飛んで来た。



**



きっと、これは、夢だ。

認めたくない現実を目の前にした時、私はよくその場面を否定する。
今回もそう。けれど、今回に限っては、否定したくもなる。
金色の蝶に囲まれたと思えば、目の前には街が広がった。街だ。
それは、私の知っている「街」とは掛け離れたものであった。
嫌な予感がする。誰か人に会いたい。確認したいことがある。
けれど、人影など見つからなく。代わりに、ふんわりと風が吹く。その風に乗って潮の香りと。
異国の香りがした。

─全てを見届けよ、

まさか。信じられない。
このタイミングで、この台詞が頭に響くなんて。
認めざる負えないじゃないか。
その言葉が、「何を」示しているのかを。
何より、私は神様と云う存在を今日初めて肯定した。
今まで神頼みすることはあったが、それは所詮、習わしの一つとしての行動であり、「神様」と云う存在を肯定しているからではなかった。
けれど、今日の一件で肯定せずにはいられない。
神様と云うものは存在する。

「そして、とんでもない糞野郎だ」

クソッタレ!!! クタバレ!!! 自分の意思がない、可哀想で、哀れな、神様!!! 調子いいときしか、その存在を認めて貰えない神様!!! シネッ!!!

汚い言葉を大きな声で叫び、空を見上げたら憎たらしいくらいの青空が広がり、上手く見ることが出来なかった。


涙なんか、流れるな。
強くそう思った。




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