冥王星にさよなら

□所詮非力なわたし
1ページ/1ページ


道中、道に迷った幼い兄妹と出会い途中まで共に行くことになった。
あと1キロ程で、別れ道になっており兄妹達とはそこで別れる予定になっていた。

「本当にありがとう」

兄妹達はあと僅かで私と別れることに気づいてか、「ありがとう」と何度も何度も繰り返した。大したことはしていない。ただ、道案内をしただけ。だから、そんなに感謝しなくていいのにと思っていると兄妹は声を揃えて言った。

「本当に、ありがとう」

困った様に微笑む私とは対象的に、兄妹は満面の笑みだった。

「最後に1つ聞いていい?」

妹が、私に一つ問う。
どうぞ、の意味を込めて頷くと妹は無邪気に言い放った。

「お兄さんは、お姉さん?」

「そうだよ」

ある日、突然、私はこの世界に放り出された。右も左も、わからないのに一人で生きていくことになった私は、まず「女」だとバレないようにした。女であると、有利な立場が不利に。不利な立場が更に不利なになる。なので極力、女であることを隠し続けた。
露出を避け、フードを深く被り、サラシを巻き、声を低くした。
そのおかげかはわからないが、命の危険にはまだ晒されていない。
出来ることなら、このままずっと晒されないで欲しいと願いながら。

「じゃね、お姉さん」

「ありがとうございました」

無邪気に笑う妹と、丁寧に礼を告げる兄を微笑ましく思いながら別れを告げた。
少し別れるのが惜しいと思ってしまったのは、内緒だ。

─全てを見届けよ、

この声は、相変わらず頭に響く。
今日で、この世界に来て3ヶ月が経とうとしていた。



**



考えなしに、突っ込む癖を何とかすべきだと自分でも思う。その場を、どうにか出来る力など私にはないのに。

「おい、ガキ。何のつもりだ」

これは、私に対して言われている台詞だ。寧ろ、私が言いたい。意識のない幼い少年に、何をしているんだと。
だが、声が出ない。
手の痛みが尋常ではないからだ。
幼い少年、目掛けた刃物を私は何を血迷ったのか素手で止めた。鋭い刃物が、肉を裂く感触に悲鳴を挙げそうになり、ぐっと堪えて飲み込んだ。利き手ではないのが、幸いだった。

「よく状況はわかりませんが、いけないですよ」

「言うじゃねぇか、ガキ」

刃物を持っている男がニヤリと笑う。刃物がぐっと更に食い込んだ。
取り巻き2人が、私に近寄る。もう、手のことだけで一杯一杯だと云うのにこれ以上の暴行は流石にまずいなとぼやく。
ポタリ、手から血が落ちる。その瞬間、私の顔と腹に衝撃が走った。

「ッ!!」

身体がよろめき少年の隣にドサリと倒れる。それと同時にフードが落ちた。

「おい、コイツ女だ」

私が女だとわかった瞬間、3人の男達のテンションが急上昇した。
頭を鷲掴みにされ、男とキスが出来そうなくらい顔が近づく。
気持ち悪い。ムカムカと胸の奥から嫌なものが込み上げる。

「楽しませて、くれよ」

何を。
だが、男は私の頭を急に放した。何かに怯えているようだったが、そこまで意識が回らず私は倒れている少年の上に覆い被さった。
これ以上、少年に危害が加わらないように。責めても、私が盾になれればと。

「このくらいしか、出来なくて、ごめんね」

泣きながら、意識が途切れた。




[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ