冥王星にさよなら

□とても単純な理由
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段々、意識が覚醒していく。それと同時に身体に痛みが走る。

「クッ、」

特に手の痛みが、尋常ではなかった。目に涙が滲む。一瞬、状況が呑み込めず困惑したが自分がした行動を思い出し、目を開いた。

─青が広がっていた。

綺麗な青だ。まるで、空のような青に目を奪われた。

「お姉さん、大丈夫かい」

そう言葉にしたのは、あの幼い少年だった。
大丈夫だと、告げたい。綺麗な色の髪だね、と誉めてあげたい。不安気な少年を早く、楽にしてあげたい。
だが、言葉が出ない。上手く口が回らない。
何とかして、出た言葉は考えていたものと全く違っていた。

「怪我、ない、」

笑ってしまう。自分がボロ雑巾のようだと云うのに、少年の心配をしているとは。

「うん。お姉さんのお蔭でボクは無事さ」

「そっか」

良かった。少年が怪我をしなくて本当によかった。
少年が怪我をしていないことに安堵していると、急に睡魔が襲ってくる。
私は、それに逆らうことをせずに身を委ねた。
微睡む意識の中、自分がこの世界に来た理由は少年を救う為ではないだろうかと思った。少年を救うのは私ではなくても良かったのかもしれないが、私があの場にいて少年に怪我ない。

─全てを見届けよ、

そう響く声が、私の考えを否定しているような気がした。
けれど、いいのだ。私はそれで十分なのだから。

涙が流れる。優しくて、大きな手が頬に触れた。



**



人生で初めて、土下座と云うものをした。
目が覚めて、周りを見渡せば美男美女がいた。この時点で息が止まりそうだったと云うのに、私が寝ているベッドと部屋の内装を見て死にそうになった。
立派だった。もう、何処の城だよと言いたくなるくらいに立派だった。
もうここから、逃げ出したくて堪らなかった。立派な内装。それは詰まり、金持ちでありこの世界の金持ちは権力者が多い。
私は、迷わず土下座をした。怪しいものではない、金は持っていない、傷の手当ての感謝を込めて。

「顔を上げてくれないか」

そう声がしたが、上げるわけにはいかない。この後、どうしたらいいのか考えがなかった。
どうしよう、どうしたらいい。何が最善かすらわからない。悶々としていると、私の肩に手が触れる。
びくり。小さく身体が揺れた。

「君はまだ起きられる身体ではない。早く横になりなさい」

優しい言葉に泣きそうになりながら、顔を上げれば息を飲むほど整った顔があった。そして、この人がこの部屋にいる中で一番偉いことが理解出来た。
固まっている私に青年が優しく私に問う。

「君の名前を教えては、くれないか」

「よのはと申します」

「オレはシンドバッドだ。よろしく、よのは」

取り返しがつかない。
この人は、一国の主。
シンドバッド王では、ないか。



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