冥王星にさよなら

□ちきゅうはわまる
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シンドバッド王は、眩しいくらいに「王」だった。
人を惹き付ける力がある。
器が大きい。持ち合わせているものが、凡人とはかけ離れていた。
これが、一代で国を築き上げた人の力かと思うと、ただただ眩しかった。
王は、私と親しくなりたいと言ってくれた。それは、とても嬉しい申し出だったが、恐縮過ぎて口が勝手に動いてしまった。
だが、シンドバッド王は些か一般人との距離が近すぎやしないかと思う。近いことは、いいことがシンドバッド王の場合は近過ぎる。
一般人の私と、親しくなりたいなんて。
まるで、あの人のようではないか。私の価値観を全て変えてしまった恩師。もう、会うことは決して出来ないけれど。あの人も、眩しい人だった。自然と人が寄ってきた。もし、あの人がこの世界にいら、シンドバッド王のように一つの国を築いていたかもしれない。
そんなことを考えると、自然と笑みが溢れた。
会いたい、会いたいな。あの人に、会いたい。
この世界に来て、辛いことをたくさん経験した。涙だってたくさん流した。その度に、あの人のことを考えて幾度も自分の心を救っていた。
思えば思うほど、胸が痛くなる。
この世界にあの人は、いない。なのに相変わらず私は、あの人を中心に生きていた。

─地球は、先生を中心に回っているんですよ

昔、無邪気に言った自分の言葉に小さく笑う。

「本当に、そう思うんですよ」

部屋に優しい風が入ってくる。
この世界に、あの人はない。



**



夢を見た。
あの人と過ごす日々の夢を見た。
無邪気に笑う私とあの人がいた。
あの人は、塾講師だった。
高校からお世話になっていた。卒業しても、時々顔を出していた。
あの人と過ごす日々は、確かに眩しかった。あの人は、先生は、私の知らない世界を知っていた。大人なのに、子どものように無邪気に人生を楽しんでいた。
先生の口から語られる世界は眩しかった。憧れた。
世界にではなく、先生に。
先生のようになりたいと、卒業前に口にするとお前は俺のようには生きられないと告げられた。私は、そっかと納得した。流石、先生だと。
けれど、私はどこかで俺について来いと言って貰えるのを期待していた。私は先生の生徒の中で、一番贔屓されているのは自分だと自惚れていた。小さなショックを抱えても、私は先生に会いに行った。
いつかは傍にいられなくなるのなら、その時ギリギリまで先生の傍にいようと思った。
先生は、笑って私を迎え入れてくれた。それだけで、もう十分だった。
出来ることなら、ずっと高校生でいたかった。ずっと先生の生徒でいたかった。

─バッタン

ドアの開く音がし、意識が少し覚醒した。誰かが私の隣に立っている。
目を開けなくてはと思ったが、瞼が重たくて上がらない。
頬に誰かの手が触れた。大きくて、優しい手。これで2回目だと思いながら、また意識が飛んだ。
この手が、先生の手だったらいいのにと思いながら。

「せんせい、」

「すまない。俺はシンドバッドだ」



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