冥王星にさよなら

□きみが笑ったから
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今日は朝から、気分が良かった。目覚めた瞬間からそう思った。今日はなんだか調子がいいな、と。
朝、アラジンくん達にも同意された。昼に来てくれた、メイドさんにも言われた。
何故こんなに調子がいいのか考え、先生の夢を見たからかなと思った私は重症だと思う。
最近やっと、室内をうろうろ出来るようになった。まだ身体にダルさは残るが、以前よりは大分楽になった。
部屋にある大きな窓からは、この国を一望出来た。潮の香りの風が吹く。
ふわり、とても穏やかな気持ちになった。
─コンコン
ノック音が部屋に響く。この時間に来る人は、一体誰だろうか。アラジンくん、アリババくん、モルジアナちゃん? ジャーファルさん? メイドさん達だろうか?
人と会えるのが嬉しくて、満面の笑みでドアを開けた。

「やぁ」

そこにいたのは私の予想した人物の誰でもなく、シンドバッド王だった。

「えっ、えっ?」

シンドバッド王に敬意をはらうのも忘れて見つめ返す。シンドバッド王は、困ったように笑った。

「驚かせてしまったみたいだな」

「あっ、いえ」

予想外の展開過ぎて、どう返したらいいのかわからない。シンドバッド王に視線を向けながら、何処かにジャーファルさんがいるのではと探すが何処にもいはしなかった。

「どうぞ、お入り下さい」

と言っても、この部屋自体がシンドバッド王のモノなのだからこの台詞はおかしい気がする。だが、シンドバッド王は、気にする様子もなく部屋に足を踏み入れた。
誰か、助けてと願ってしまった。



**



お互い向き合う形に椅子に腰を降ろした。

「シンドバッド王。何か、私にごようでしょうか」

おずおずと尋ねれば、シンドバッド王はああ、と力強く頷いた。何だろうか、いろいろなことが頭を過る。
ドッキ、ドッキと心臓が煩く鳴った。

「よのは。オレは、君と親しくなりたいんだ」

そう告げるシンドバッド王は、「王」ではなく「一人の人」であった。

「よのはが、敬意を払いオレに接しているのは合っているし、間違っていることじゃない」

「はい」

「だが、オレはよのはと普通に話をしたい」

「普通にですか」

「ああ」

どうしよう。それは、とても、とても。

「嬉しいです。でも、やはりまだ緊張はしてしまうので、許して下さいね」

親しくなりたいと言われて嬉しいわけがない。それに、シンドバッド王は周りに敬意を払われたいタイプではない。周りと親しくなりたいと思うタイプの人だった。そんなタイプの人に、敢えて敬意を払った態度をとり続けていたら相手に失礼である。
シンドバッド王の気持ちと申し出を大切にしたい。

「本当かっ?!」

「はい。呼び方はどうしたらいいですか」

なるべく砕けた言葉を使おうと意識した。シンドバッド王は私の言葉使いの違いに気がついてか、少し驚いたような顔をした後、嬉しそうに微笑んだ。

「なんでも構わない」

「では、シンドバッドさん、でどうでしょう」

私の提案にシンドバッドさんは、大きく頷いた。

「呼び捨てでも、大丈夫なんだが」

「アハハッ、それは流石に無理ですよ」

自分がシンドバッドさんを呼び捨てで呼ぶ場面を想像し、とてもシュールで笑ってしまった。
シンドバッドさんも、釣られて笑ってくれると思ったが何故だかきょとんとしていた。
どうかしたのだろうか。

「あの、」

「いや、何でもない」

「なら、いいです」

微笑めば、シンドバッドさんも微笑んだ。



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