冥王星にさよなら

□助けてかなわない
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3日経過し、意を決してシンドバッドさんに会いに執務室に行けば私とは打ってかわり、笑顔で迎い入れた。

「おはようございます」

「おはよう」

シンドバッドさんの机の向かいに置かれているイスに座り、何を云うわけでもなく言葉を待った。

「君に笑って欲しい」

シンドバッドさんは、何の迷いもなくそう告げた。
それしか願いがないから仕方なく、と云う妥協ではなく本心から告げていることだと理解出来、私は何も言えなくなってしまった。
どうしてこんなにも、広い心を持っているのだろう。
王、故にか。シンドバッドさん、故にか。
どちらにしても、やはり敵うわけがない。

「ありがとうございます」

泣きそうになるのを堪えながら口にする。けれど、シンドバッドさんの願いを叶えるのに自分がどうしたら良いのか私にはわからない。

「よのは」

「はい、」

「君は、何故旅をしている」

息を飲む。
それは答えることが出来ないからではない。自分でも、わからないからだ。
何を言ったら良いのかわからなく黙っていれば、シンドバッドさんは困った顔をした。

「言いたくないのなら、言わなくていい」

「そう言うわけでは」

焦って言葉を繋ぐ。
だが、その先をなんて言ったらいいのかわからなかった。
本当のことを告げればいいのか。誤魔化せばいいのか。もう、助けて欲しかった。

「理由を聞いてから言おうと思ったが。よのは、君に旅はもう出来ないだろう」

本当に、助けて欲しかった。



**



一瞬、何を指摘されたのか理解出来なくポカンとしていると、シンドバッドさんは私の左手をとった。
その動作が何を意味しているのか理解出来、咄嗟に左手を引こうとしが逃れることが出来なかった。

「あの、」

いつから、どうして、気づいていたのだろうか。逃げ出してしまいたいのに、シンドバッドさんがそれを許してくれない。
心臓が大きく脈打った。

「左手の握力が戻らないんだろう」

何も言いたくは、なかった。言ってしまえばそれを認めることになってしまう。

「最初は何となくだったが、指切りをしたときに確信が持てたんだ。よのは、どうするんだ。これから」

「たびにでます」

ビクリ。微かにだがシンドバッドさんの身体が揺れたような気がした。

「その左手で、」

シンドバッドさんの声音が急に変わった。
怖い、ただそう感じた。

「君が旅をする理由はわからない。だが、今のままでは君はいつか、」

「…わかっています」

それは言われなくてもわかっていた。何の護衛術も持ち合わせていない私が、このまま旅をすれば確実に死ぬ。寧ろ、今まで生きてこれたことの方が奇跡に近い。
それを踏まえた上で、左手を負傷してしまったとなれば確実どころではない。死ぬしか、他にない。
シンドバッドさんの言わずとしていることは、わかる。だが、自分でもどうすることも出来なかった。
何が正解なのか、もうわけがわからない。考えてることさえ、辞めたくなる。

「…助けて下さい」

「よのは、」

「たすけて、ください」

もう、どうにでもなれ。
泣きながら助けを乞えば、シンドバッドさんを纏う恐怖は消え優しいものとなった。

「ああ、オレに出来ることなら何でも言ってくれ」

駄目だ。この人には、一生叶わない。
左手は未だに、シンドバッドさんの温かくて大きな手に包まれていた。



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