冥王星にさよなら

□うつりゆくものよ
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─全てを見届けよ、

相変わらずこの言葉は頭に響くが、以前よりも囚われなくなった。これは、そういうものだと自分の中で処理が出来るようになった。
その言葉に従おうとはせず、言葉を心の中に留めておきながら生きようと分別が出来るようになった。これは、逃げではない。そう自分で納得し、思うことが出来た。
この世界で生きることが、楽になった。
そう思えるのは、全てシンドバッドさんのお掛けだった。
何から何まで、シンドバッドさんに私は救われていた。どう、恩を返したらよいのかわからない。
時に、シンドバッドさんに対する感謝が膨大過ぎ、自分の不甲斐なさに涙しそうになる。
どうしようもないそれに、自分でもどうすることも出来ず、せめて私の感謝の気持ちが少しでも伝わればいいと思いながら、翌日の仕事を頑張ろうと心に決める。

─全てを見届けよ、

うん。わかっている。
全てを見届けるよ。だから、まずはシンドバッドさんに感謝の気持ちを伝えたい。
全てを見届けよ、と云う言葉の真意は相変わらず理解出来ない。
けれど、その言葉を重荷には感じなくなった。使命だとは思わない。いつの間にか、生きる理由にはなっていた。

─全てを見届けよ、

うん。
この世界で生きるよ。



**



「おい、よのは」

「なんですか」

先生が私に声を掛け、陽気に笑いながら席の前に腰を降ろした。いつもの授業風景に特に何を思うわけでもなく、相槌をうちを教えて貰う態勢をとる。
すると、先生はクスクスと笑みを溢しながらお前なぁ、と語りだした。

「俺はさ、もっと楽に生きていいと思うぞ」

「えっ、なにが」

「お前が」

クツクツ、先生が笑う。
私がキョトンとしていると、先生は笑うのを止め優しく微笑んだ。私は、そんな先生の顔が好きだ。

「よのは、無理すんなよ。お前は、笑った顔が一番いいぞ」

「ほんとうですか?」

「ああ、可愛いぞ」

きゅん。
先生があまりに何気なく言うものだから、息が止まりそうになった。心臓が堪らなく痛い。
止めて欲しい。こう云うことは、本当に止めて欲しい。

「よのは、」

─よのは、

はい。何ですか、そう返事をしたいのに先生の声と誰かの声が被る。

─よのは、

「はい」

「目は覚めたかい」

優しく告げるシンドバッドさんを眺め状況を把握する。うたた寝をしていた私を、シンドバッドさんは起こしてくれたようであった。
机に伏せて寝るなんて、久しいなと思いながら謝罪をし礼を言う。

「すいません、ありがとうございます」

「いや、構わないさ」

「書類もすいません」

わざわざ持って来てくれたことに感謝をすれば、シンドバッドさんは陽気に笑う。お安いご用さ、と。

「それにしても、とても幸せそうな顔をしていたがどんな夢を見ていたんだ」

だが、何故か夢の内容が思い出せずにいた。ただ、一つ覚えていることがある。

「内容は覚えていないんですが、シンドバッドさんの声が聞こえました」

そう告げれば、シンドバッドさんは困ったように笑っていた。参ったなぁ、と。


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