冥王星にさよなら
□お兄ちゃんの背中
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─パタン。
戸を閉めた音が耳に入り、よのはが来たことがわかった。朝の挨拶をする為、机に向けていた顔をよのはがいる方に顔を向けた。
「よのは、何があったんですか」
挨拶なんて忘れ、そう口が勝手に告げていた。よのはは、顔を真っ赤にし恥ずかしそうな顔をする。
「なんでも、ない、です」
顔を下に向け、誤魔化しているつもりだろうが全く誤魔化せていなかった。
よのはは正直過ぎる。
誰が見たって、何かあったことはまるわかりだ。
言い辛いことなのだろうか。よのはにどう接するべきか考えていると、ギィと戸が開く音がする。
このタイミングで、とジャーファルは戸から入ってくる人物に目を向けた。
「シン!!」
何故、このタイミングなんだと頭を抱えたくなった。
「どうしたんだジャーファル…よのは?」
シンドバッドがよのはの名を呼ぶ。その声に、ジャーファルもよのはに目を向けた。
真っ赤だった。リンゴのように真っ赤だった。
誰に対して、よのはが照れているのかジャーファルは理解した。
「よのはがシンの毒牙に…」
なんと言うことだ、と1人絶望の淵にいるジャーファルを現実に引き戻したのはよのはであった。
「ジャーファルさん」
「…よのは」
「あの私、噂を聞いてしまったんです」
「噂、よのはのですか」
そんな噂ジャーファルは知らなかった。よのはの噂など。シンドバッドもそうだろう。同意を求めるようにシンドバッドは見れば、困ったように頬を掻いていた。
ジャーファルは、げんなりした。
**
「ヤムライハがよのはについて知りたいと言われたので、つい」
それが噂になってしまったのか、とジャーファルは一人納得した。
「噂の内容は」
その瞬間、よのはの顔がぼっと赤くなる。一体、どんな内容なのかと身構えればシンドバッドは何でもないように告げた。
「事実を言ったまでだ。真っ直ぐで、一生懸命。見ていると、構ってやりたくなる」
確かに事実だ。
しかし、よのはからしたらとても恥ずかしいようで未だに手で顔を覆っていた。
「よのは、何を恥ずかしがっているんだ。オレは事実を、」
「や、やめて下さい」
もう、恥ずかしくて死にそうです。
そう告げながら、よのははジャーファルの背に隠れた。
ここに来れば、安全だと思ったかと思うとジャーファルは嬉しく感じた。
「よのは、落ち着いて下さい」
ぽんぽんと優しくあやすように、よのはを落ち着かせる。
「はい」
よのはは顔を覆っていた手を、少しずらしジャーファルを盗み見た。
「ごめんなさい」
「いいんですよ」
穏やかな雰囲気になったと、ジャーファルは安堵した。しかし、容易くその雰囲気をシンドバッドはぶち壊した。
「よのはのそう云うところが、構ってやりたいと思わせるんだ」
いい加減にしろ、ジャーファルは関節を鳴らした。