冥王星にさよなら

□クツクツクツクツ
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ぱたぱたぱた。ぱたぱたぱた。あっちへ行って、こっちへ行って。
ジャーファルさんの仕事を手伝うようになってから、城内で迷子にならなくなった。数日で、かなりの通路を行き来した。頭ではなく、身体が勝手に覚えていた。
私は、そう思っていた。

「あれ、」

百枚程の書類を抱えながら、頭を捻る。この通路は通ったことがない、と。
早く資料を持っていかなくてはいけないのに、迷っている暇などないのにと焦る気持ちが募っていく。

「どうかしたのか」

何処からか、声がしたが姿が見当たらない。後ろを見、前を見、また後ろ見るとそこにその人はいた。

「わっ」

「いい反応するなぁ。迷ったんだろ」

「…はい」

恥ずかしいやら、なんやらでどう対応したらよいのかわからない私を見てその人は陽気に笑った。

「そんなに緊張すんな」

「…はい」

「オレはシャルルカンだ。よのはだろ」

知ってて当然と云うように私のよのはを告げる男性に、返事を返すのを忘れてしまった。

「大丈夫かよ」

わしゃ、わしゃ、と私の頭をまるで動物を触っているかのように撫で回した。

「やっ、やめてくださいよ」

「構いがいがあるなぁ」

からかうの間違いじゃないのか、と思いながら私はどうすることも出来ずに頭を撫で回されていた。
なんだろう、この状況は。



**



「よのは、そう怒んなって」

無理な話である。
シャルルカンさんが思う存分、私を撫で回した後、当たり前のように道案内をしてくれた。それはとても喜ばしいことだったが、私の機嫌はかなり損なわれていた。
気さくな性格が、シャルルカンさんの良さなのだと思うがそれとこれとは話が別である。
初対面で、意気なり頭を撫で回せば誰だって怒るだろう。
シャルルカンさんは、「機嫌直せよー」、「よのはー」と溢しながら隣を歩いていた。

「大丈夫です」

「全然、大丈夫じゃないだろ」

仕方ないなと言いながら、シャルルカンさんは何やらガサゴソとポケットを探り小さな袋をとりだした。

「これで機嫌直せって」

それは、キャンディーのようなものであった。色とりどりの丸いもの。甘いんですか、と問えばああと得意気に笑った。

「オレンジ下さい」

「ほら」

受け取り口に含めば甘かった。それは、キャンディーと云うより金平糖に近いものであった。

「うまい」

「よのはが単純でよかった」

それは口にしちゃいけない台詞でしょ、と思い感じた怒りをどうしようか考えた。

「シャルルカンさんの背中に虫が」

バッシン、と思いっきり背中を叩く。自分の手も紅くなるが、すっきりしたので何よりである。無論、虫なんていないが。

「っ、よのは。お前、それ色々とアウトだ」

「大丈夫です。虫はいませんでした」

「そこは、嘘でもいましたって言えよ」

クツクツと笑い出すシャルルカンさんにつられ私も笑った。久しぶりに、お腹の底から笑った気がした。
シャルルカンさんといると、気の置けない友人といるようだった。



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