冥王星にさよなら

□きょうふの冷たさ
1ページ/1ページ


今日はよのはの声が城内に響いていなかった。
それに少し寂しさを感じながら、シンドバッドは執務をしていた。
よのはは、街に買い物に出掛けている。今日は、どうしても買いたいものがあるらしく朝から出ていた。

─コンコン

扉を叩く音が耳に入る。入れ、と告げれば書類を抱えたジャーファルが呆れた顔で入って来た。

「どうですか。進んでいますか」

「進んでいない前提なんだな」

笑って言えば、当たり前ですよと返された。

「よのはがいないんですから」

「それはどうかと思うが」

確かに、よのはから渡された書類は何故だかやらねばと云う気になったが、そうでなくても仕事はするがと思ってしまう。
ジャーファルは、書類を机の脇に置き時間になったら茶を持ってくると告げ去っていった。
つまり、それまでには終わらせろと云うことかと思いジャーファルが置いていった書類を見つめため息を吐いた。
よのはは、楽しい時間を過ごしているだろうかと思い筆をとった。
時刻も昼を過ぎた頃、ジャーファルが終えた書類をとりにやって来た。

「終わりましたか」

「ああ、持っていってくれて構わない」

ジャーファルは終えた書類を確認しながら、そう言えばと言葉を溢した。

「よのは、遅いですね」

「そうだな」

朝から出掛けたにしては、時間が掛かり過ぎる。多少は気になるが、女性は買い物が長い為気にするなとジャーファルに声を掛けようとすると、意気なり扉が開いた。

「失礼します」

一人の兵が慌てて、執務室に入って来た。ジャーファルが諭すように、兵に問う。

「何事ですか」

「よのはが、気を失って戻って参りました」

「何処にいるんだっ! よのはは今何処にっ?!」

身体の体温が急に下がっていく。心臓が煩い。嫌な予感が頭を過る。

「部屋に連れて行き、寝かせております」

形振りかわまず、駆け出した。脳裏には、初めて会った時のよのはの姿が浮かんでいた。



**



「よのは、」

眠るよのはの寝台に腰を掛け、頬を撫でる。未だに意識は戻らなかった。
よのはは絡まれている女性を庇い、突き飛ばされ打ち所が悪く気を失ってしまった。その騒ぎを聞きつけた兵により、よのはは城まで連れて来られた。
ゲガはしていない。命に別状はない。
だが、寝台で眠っているよのはを見た時、肝が冷えた。
生きているのか、と。
急いで近寄り、息を確かめる。良かった生きていると確認出来た途端、身体の力が一気に抜けた。
後から来たジャーファルがどんな状況でよのはがこうなったのか、体調はどんな感じなのかと詳細を告げた。全てを告げ終えたジャーファルは、ではよのはが目覚めたら教えて下さいねと言い、と告げ他に何も言わずこの場を後にした。この状況で、執務など出来るわけもなく今のシンドバッドは、使いものにならないと判断したジャーファルに感謝した。

「んっ、」

「よのは?」

よのはが小さくうめき声を上げた。その声に返せば、よのははゆっくりと瞼を開ける。

「気分はどうだい」

「あっ、えっ、私はどうして寝ているんですか」

「女性を庇って突き飛ばされたんだ」

すると、よのはは、ああそっかと何処か他人事のように呟いた。

「女性は無事ですか」

「…ああ」

「よかった。ご心配をお掛けして申し訳ありませんでした」

困ったような安堵した顔でそう告げるよのはに怒りが抑えきれなかった。

「よかった、だって」

シンドバッドの声音の変化によのはは驚き身体を縮こまらせた。



[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ