冥王星にさよなら
□なにかのよちょう
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さわさわさわ。
胸が妙にざわつく。そのざわつきの理由がわからず、気にしないフリをした。
よのはは、まだ笑っていた。何が、嬉しいのかクツクツと喉が鳴っている。
「シンドバッドさんに、お渡ししたいものがあるんです」
一通り笑ったかと思えば、寝台の横にある机に置かれている、鞄に手を伸ばし中を漁り出す。
「割れてないといいんですけど」
不安気に告げながら、よのはの手に収まりきらないくらいの大きさの箱を取り出した。
「それは」
「その、私の気持ちです」
びくつきながら、それを渡される。よのはの気持ちとは。
シンドバッドの困惑が、よのはに伝わったようで付け足すように言葉を続ける。
「お世話になっているので、少しでも」
シンドバッドは、何を言ったらよいのかわからなくなりぼんやりとよのはから手渡された箱を見つめていた。
「あの、」
控えめなよのはの声で我に返り、何を思うわけでもなく箱を開けた。
その中には、グラスが入っていた。綺麗だ、と素直にそう思った。
「シンドバッドさんと同じ色にしました。気に入って頂けたら何より、です」
よのはは、このグラスを買うのにどれだけの時間を掛けたのだろう。どれだけの店を回ったのだろう。
どれだけ、どれだけ、シンドバッドのことを考えたのだろう。
そう考えると、体内に流れる血が沸騰したように熱くなる。
よのはに告げる、言葉さえ忘れてただグラスを見つめていた。
「シンドバッドさん、気に入って頂けましたか」
「ああ、とても気に入ったよ。ありがとう」
気に入らないわけがない。
よのはの気持ちだけで十分だと云うのに、これ以上何かされたらシンドバッドどうしたらよいのかわからなくなる。
「へへっ、嬉しいです」
照れたようによのはが笑う。その目尻に涙が溜まっているのが見えた。
シンドバッドに気に入って貰えた。それだけのことで。
胸が苦しい。
よのはのシンドバッドに対する思いに、言葉にならない気持ちになる。自分はこれ程までによのはに思われているのかと思うと胸の奥から熱いものが込み上げた。
シンドバッドの人柄は多くの人を惹き付け魅了し、愛され慕われた。このように、慕われることすら初めてではない。なのに、よのはからの気持ちは特別に感じた。初めて向けられたように戸惑い、上手く言葉に出来ない思いが胸に溜まる。
「ありがとう」
もう一度、礼を告げる。
すると、よのはは破顔した。
何か、言葉を貰うより衝撃を受けた。よのはのその表情だけで、十分に伝わった。寧ろ、それに加え言葉を貰うものならシンドバッドはどうなっていたか知れない。
「ジャーファルさんの分も、あるんですよ」
得意気によのはが笑う。だが、シンドバッドの耳に入っていたなかった。
──それだけの気持ちをオレに向けて、どうしろと云うんだい、よのは。
胸のざわつきが、更に増した。