冥王星にさよなら
□だれのためでなく
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普段のように仕事を終え、夕飯だと云う時にシンドバッドさんは思い出したように私に告げた。
「よのは、今日は宴だ」
「宴ですか。何か良いこともでも?」
「いや、ないが」
えっ、えっとお互いに首を傾げているとジャーファルさんが見かねて補足をしてくれた。
「シンが宴と言えば、宴になるんです」
「そうなんですか」
「はい」
ジャーファルさんが、困ったように笑う。私は、「それは楽しそうですね」とつられて笑った。
「よのは、行こう。さぁ、こっちだ」
まだジャーファルさんとの会話が終了していないうちから、シンドバッドさんに手を引かれ歩き出す。戸惑うその行動に、ジャーファルさんを見ればやはり困ったように笑っていたのであった。
「よのはは酒は好きかい? 美味い酒がたくさんあるんだ。食べ物も美味いものばかりだ。よのははどんなものが好きだい」
シンドバッドさんに圧倒されてしまい何も言うことが出来ない。今日のシンドバッドさんは何かおかしい。
「シンドバッドさんは、それほどまでに宴が好きなんですね」
「よのは?」
「だって、シンドバッドさんとてもそわそわしてますもん」
何だか、遠足前に眠れなくなる子どもみたいで可愛いなと思ってしまった。
「あぁ、まぁ、うん。そんなとこだ」
シンドバッドさんはどこか歯切れの悪い返事をした。
困ったようなその顔に、疑問を抱きながら手を引かれるままに歩いた。
**
「着いたよ」
よのはの手を引いて、広間に連れてくれば案の定目を輝かせた。
「凄いですね」
繋いでいた手が放れ、よのはが広間を歩き出す。
放れてしまった熱を残念に思いながら、高揚しているよのはを眺めて笑う。
喜んでくれて何よりだ。
初めて見る料理に頭を傾げ、何だこれはと探っているよのはに近づこうとすると自分よりも先に近づいた人物がいた。
「何やってんだよ、よのは」
「シャルルカンさん!」
「何だ、その体勢見てると頭どつきたくなるな」
「ひー、今日も絶好調ですね」
「何がだよ」
当然のようによのはに近寄り、当然のようによのはの隣に居座るシャルルカンの姿に呑んでいた葡萄酒のグラスを噛んだ。
どうしてああも、違和感がないのだ。
そう思えば、思うほどに胸に苦い思いが募っていった。
そわそわしている?
当然だ。この宴は、自分の為に開いたのだから。よのはと、以前よりも親しくなれたらと。よのはの新たな一面が見られたらと。
なのに、よのははシャルルカンの隣で笑っていた。
やってられない。
よのは、と呼べば彼女は自分の元に来てくれる。
だが、それはしたくはなかった。自らの意思で、自分の元に来て欲しかった。
よのは、よのは。
シャルルカンに向けている笑顔を、自分に向けて欲しかった。
何杯目かも覚えていない酒を呑む。意識がぼんやりしてきたが、視界はボヤけることもなくよのはだけを捕えていた。