冥王星にさよなら

□過去にしたくない
1ページ/1ページ


ふらふらと足取りが覚束無い。気を抜いたら意識が飛んでしまいそうになるのを堪えながら、自室に向かっていた。
結局、よのはが自分のところに来てくれたのは1度だけであった。後は、ほぼシャルルカンといた。よく笑い、よく食べた。酒は、あまり得意ではないようだが葡萄酒は美味しそうに呑んでいた。
やるせない気持ちが募る。
よのはが喜んでくれたのは嬉しかったが、後はどうにも納得がいかない。
自分の元に来ないことが。自分の元に呼べないことが。
もどかしさ、苛立ちが酒の所為もあってか抑えられない。呑んでいる時は誤魔化すことが出来たが、今は感情を抑えることが出来なかった。

─まずい

身体が大きく揺れる。そろそろ限界かもしれないなと思い倒れそうになる身体を壁にもたれながら必死に支える。
こうなったら、ここで寝てしまうのも良いかもしれないとどこか自暴自棄になっていると聞きたい声が耳に届く。

「シンドバッドさん?」

「よのは」

一瞬、自分の幻聴ではないのかと思ったがそこにいたのは確かによのはだった。

「大丈夫ですか」

「少し呑み過ぎてしまったようだ」

グラリ。身体がまた傾く。
まずいと思い支えようと壁に手を伸ばす前に、小さな手に支えられた。

「部屋まで送ります」

よのはの手が腕を掴みシンドバッドを支えている。よのはの手は、ヒンヤリと冷たく火照った身体には丁度良かった。

「ありがとう」

するとよのはは、得意気に笑った。頼られて嬉しいと云う顔をしている。
素直に可愛いなぁと思った。

「よのは、今日は楽しかったかい」

「はい、とても」

満面の笑みでそう告げる。
嬉しさ半面悔しさもある。
それはシャルルカンと話せたからかと言ってしまいそうになった。



**



シンドバッドを部屋まで送ったよのはは帰ることはせず、その後もシンドバッドを気づかってくれた。
気分は悪くないですか。お水飲みますか。横になりますか。
掛けれる言葉、一つ一つが優しく幸福を感じずにはいられなかった。

「よのは、少し隣にいてくれるか」

「はい」

言われるままに従うよのは。寝台に腰かけるシンドバッドの隣にポスンと腰掛けた。
沈黙が続く。
よのはは、シンドバッドが何か言って来るのを待っているようだったが敢えて無視をした。
チラリとよのはを盗み見る。いつの間にか、このシンドリアで自分の居場所を作り始めたよのはにシンドバッドは寂しさを感じていた。自分が思っているよりも早く、よのははこの城を巣だって行くかもしれない。そう思うと堪らなくなる。いつか、街で住むようになり、シンドバッドと過ごした日々がよのはにとって過去になってしまうのではないかと。
今は、こんなに近くともいつかは遠くに行ってしまうことが。よのはと呼んでも、振り替えってくれない日がくることが。よのはがシンドバッドの知らない人間と楽しそうに日々を過ごしていくことが。
堪らなく、堪らなく、堪らなく。

「よのは」

「はい」

「オレは寂しい」

そこで、シンドバッドの意識は途切れた。


[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ