冥王星にさよなら

□手遅れ末期の患者
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ジャーファルは、何時ものようにシンドバッドを起こしに寝室の扉を叩く。
コンコン。
返事が返って来ないのはいつものこと。はぁ、と一つため息を吐き部屋に足を踏み入れた。
相変わらずぐっすり寝ているシンドバッドに近づきジャーファルは、パンパンと手を叩き声を出す。

「シン、起きて下さい」

パンパン。
再度、手を叩いてもシンドバッドが起きる気配は全くなかった。仕方なく、掛かっている布団を剥ぎ起こそうと試みた。
バッと勢いよく布団を剥ぎ、ジャーファルは息が止まりそうになる。
一瞬、これは夢ではないのかと思う程に信じがたい光景が目に映ったのだ。

シンドバッドが、よのはを抱き寄せながら寝ていた。

無論、シンドバッドは全裸である。

─全裸。ゼンラ。ぜんら?

「シン、起きて下さい」

「ジャーファル…?」

あれ程、目を覚まさなかったシンドバッドがジャーファルの声に反応した。

「どうした、殺気が出ているが」

ゆっくり瞼を開きながらジャーファルにシンドバッドが語りかける。

「まず、この状況を説明して下さい」

「ん…? よのは?!」

わっと驚き急いでよのはから身を放す。サッーとシンドバッドの血の気が引いていくのがわかった。

「まさか、記憶がないなんてこと」

「…すまん」

「それで済むと思っているんですか」

ジャーファルがそう告げれば、シンドバッドはチラリとよのはを盗み見る。
何か、おかしい。
ジャーファルの直感が、そう告げていた。



**



「つまり、抱き寄せられてそのまま逃れることが出来なかった、と」

「はい。そう言うことです」

よのはは、いつになく陽気に笑った。
まず、何からシンドバッドに尋ねればよいかと考えているとよのはがむっくりと起き出した。この由々しき事態によのはは、焦ることもせず淡々と昨夜何があったのか話していった。
酔ったシンドバッドを部屋まで送り、もろもろ介抱した後、抱き寄せられそのまま寝てしまった、と。
何故、抵抗しなかったのか。身の危険は感じなかったのかと問えばよのはは申し訳なそうに告げた。

「私も眠かったんです。お酒が入っていたので。何より、シンドバッドさんの相手が私なんて務まりませんよ」

間髪入れずに、言葉を発しそうになり急いで呑み込む。シンドバッドが、クシャリと顔を歪めたのだ。
何時もなら、「そんなことはないぞ」と言い陽気に笑っているところをシンドバッドは何も言わず顔を歪めた。
おかしい。この反応は、どう考えてもおかしかった。

「そんなことはないですよ。よのはは、素敵な女性です。なので、もう少し危機感を持って下さいね」

優しく諭すように告げればよのはは、「はい」と頷き反省をしているようであった。
シンドバッドを見れば、まだ顔を歪ませていた。先ほどよりも少し険しくなったような気がする。

「よのは、部屋に戻ってまた寝るといいですよ」

「はい、失礼しますね」

ご迷惑をお掛けしました、とよのはは一礼をし去って行くかと思えばシンドバッドに目を向け優しく微笑んだ。

「私は、どこへも行きませんよ」

そう告げよのはは、この場を後にする。
残されたシンドバッドは、心ここに在らず状態でジャーファルは少し深く突っ込んでみることにした。

「アナタが手を出さないなんて珍しいですね」

「ああ…」

シンドバッドは何を言うわけでもなくよのはが寝ていた場所をただぼんやり眺めていた。
ジャーファルは思う。


これはもう手遅れだ、と。



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