冥王星にさよなら
□とおくはなれた星
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よのはと一夜を共にしてしまった。何もなかったが、どうも頭に引っ掛かる。
仕事をしている時はいいが、何もしていないとそのとこばかり考える。
もっと絞れば、よのはのことだ。よのはのことばかり、考えてしまう。
寂しいと、感じた。よのはが自分から、離れることが。ただ、ひたすらに寂しく感じた。
それがよのはの笑顔に繋がるとしてもうまく納得出来なかった。
よのはは言った。「私はどこへも行きませんよ」
その時、酷く安堵したことを覚えている。
よのはが絡むと自分はおかしくなる、という自覚はある。
だが、なかなか答えには着地出来ずにいる。
悶々としたものを抱えながら、夜空を眺めに外に出る。冷たい風が、やけに心地良い。
空を眺めながら、今日の夜空は一段と綺麗だと思わずにはいられなかった。
軽く散歩をしてから、寝室に戻ろうと宛てなく歩いているとよのはが夜空に手を伸ばす姿が目に入る。
胸に広がる甘い気持ち。
誤魔化すように声を掛けた。
「どの星が欲しいんだい」
声を掛ければ恥ずかしそうな顔をし、少し悩んでからよのはは夜空に指を向ける。
「あれです」
指示すそれは、名も無き星だった。
「何故、あれなんだい」
「何故ですかね。でも、あれが欲しいんですよ」
困ったように首を傾げるよのは。
何を言ったらよいのかわからなくなった。
**
2人で地面に座り、ぽつぽつと会話をする。
現在の話や、過去の話。
穏やかな時間が流れる。
1対1になるとよのははよく喋る。無理をして話しているではなく、楽しくて話しているのがわかるだけに、何とも言えない気持ちが胸に募る。
よのはの新たな一面を見る度に、幸福な何かが胸に溜まっていくような気がした。時折、それが胸に溜まり過ぎて息がしずらくなってしまう。
「シンドバッドさんは、きっと一番星ですね」
急によのはが、そう告げる。何かを告げようと口を開く前によのはがまた喋りだした。
「眩しくて、眩しくて、どこにいてもすぐに見つけることが出来るのがシンドバッドさんです」
「よのはは?」
「えっ、私ですか?」
うーん、と笑いながら何処か楽しげに悩むよのは。クスクスとよのはが楽しげに笑う度に、身体中がこそばゆくなる。
「私は、きっと名前もない一番星から遠い星です」
あれとか、とよのはがが適当な方を指し笑う。
そこには、自分を卑屈に捉えているのではなく素直にそう思うのだろうと感じとれた。
「オレは、よのはが一番星だと思うが」
「えっ、ああ、シンドバッドさん。流石にそれは恥ずかしいですよ」
よのはが困ったようにそっぽを向く。照れているようで、頬が少し紅くなった。
可愛い、と思う。ただ、ただ、可愛い、と思う。
「でも、名のない星の方がよのはに合ってるな」
「どうしてですか」
「その星の良さは、わかる者にしかわからないからさ」
恥ずかしい、と言いよのはは顔を手で覆いながら地面に倒れた。左右に揺れた後、よのはは少し怒ったように告げた。
「シンドバッドさん、信じられない!!」
「何がだい」
「もー!」
そう叫びながら、よのはが笑う。
あっはは、あっはは、今が楽しいとわかる声であった。
「星が綺麗ですね」
地面に大の字で横たわるよのはを眺める。よのはの瞳に星が映った。
何よりも、綺麗だと感じる。
「ああ、綺麗だ」
よのはが幸福そうに微笑んだ。
風は吹いていない。