冥王星にさよなら
□いきをすってはく
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用がありよのはを探すが、なかなか見当たらない。どこに行ったのだろうか、とよのはが行きそうな場所を当たってはみたがやはりそこにはいなかった。
誰かに聞けば直ぐに見つかるかもしれないが、それだけはしたくなかった。自分でよのはを見つけたかった。
休憩とし、この国を一望出来る場所に足を運んだ。
城内の中心部から、少し離れた場所の一角にある窓。
そこが、この国を一望出来る場所であった。城内の人間でどれだけの者がこの場所の意味を知っているのかはわかりはしないが、現状では自分だけだと思っている。
自分だけの特別な場所。
それが、そこであった。
城内からいくらでも、この国を一望出来る場所は多数ある。その中でも、最も素晴らしく見えるのだ。
この国が。シンドリアが。己の国が。
だから、「特別」なのだ。
街が見え、人が生き、活気が伝わる。
眺める度に、民から生命力を分けて貰っているような気分になる。
本当に特別だった。人に云うのが勿体ないと思うほどに。
今日は、晴れているから街がよく見える筈である。そう考えるだけでも、心踊る。次の角を曲がればそこにたどり着くのだが、曲がろとした瞬間人の気配を感じその場に留まった。
城内にいるのだから、警戒しなくても良いが場所が場所だけにそう言うわけにもいかなかった。
自らの特別な場所にいる人物は誰だろうか、と角から盗み見た。
「よのは、」
小さく声に出してしまい慌てて、口を閉じる。
驚いた。誰でなく、よのはであることに驚いた。
─ドッキ、ドッキ
心臓が大きく脈打つ。
迷ってしまったのだろうか。偶然、ここに来てしまったのか。
それとも。それとも、自らの意思でここに来たのだろうか。
─ドッキ、ドッキ
考えれば考えるほど、心臓が煩い。息がしづらい。
血が熱を持ったように熱い。
この場をどうしたらよいのか、らしくもなく判断に迷う。
悶々としていると、風が窓から入ってくる。
よのはは、その風を一身に受けていた。
「よのは」
声を掛けずにはいられなかった。よのはは、驚いたようで小さく身体を揺らしシンドバッドの方へ視線を向けた。
「シンドバッドさん」
「よのは、探していたんだ」
「そうでしたか、すいません」
よのはが困ったように笑う。
違う。言いたいことは、こんなことではない。
何故、この場所にいるのか。そう問いたいに、上手く口が動かない。
一体、どうしたというのか。今日の自分は本当にらしくない。らしくない。
「ここシンドリアが、一番綺麗に一望出来る場所なんですよ。知っていました?」
「ああ」
ですよね、と微笑み再びシンドリアを眺めるよのはに目を奪われる。
よのはは、シンドリアを眺めていた。瞳の奥を輝かせ、慈しむようにこの国を見ていた。
─ふわり
風が吹く。するとよのはは、目を瞑り一身に風を感じていた。嬉しそうに微笑みながら。
すると、よのはの言葉が頭に響く。
風までも、シンドバッドさんのように優しいんですから。
ぐわん、ぐわんと後頭部を殴られたような感覚に襲われた。よのはから目を反らすことが出来ない。
何故だかわからないが、このままではいけないような気がした。早く目を反らさなくてはいけない。
けれど、なかなか思うようにはいかなかった。
─カチリ
視線が合う。
よのはの目と合った。
「どうかしましたか」
「よのはは、シンドリアが好きかい」
「はい」
嬉しそうに笑って告げる。
それは、この国の主がオレだからなのか。
言葉に出そうになるのを慌てて飲み込み、あっ、と気づかされた。
これが「落ちる」と言うことか。その意味が随分前まで、一つの表現方法としてしか思っていなかったが。
恋に落ちる、とはこう云うことなのか。
よのは。
君が好きだ。
息をすってはくように、
君に恋をしていた。