冥王星にさよなら
□なんて、無謀な話
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朝は、アラジンくん、アリババくん、モルジアナちゃんが。昼はメイドさんが。晩は、ジャーファルさんが。
私の部屋に来ることに慣れだした頃。もう一週間が、経とうしていた。
─コンコン
「はい」
「失礼しますよ」
今日もそう言ってジャーファルさんが、入ってくる。
もうこの時間に来ることは、お互いにわかっているのだからわざわざノックなどしなくていいのにと言えば、ジャーファルさんにそれは出来ないと言われてしまった。ジャーファルさんも人の事は言えないくらい真面目ではないか。
「左手の傷が膿むことなく、順調に治っているので安心しています」
「良かったです」
けれど、ジャーファルさんの顔は優れない。どうしたのだろうか。
「ですが、これだけ深い傷だと傷痕が残ってしまうのが。貴女の世話人からも、聞きました。身体の痣が酷いようですね」
「旅をすると決めた時点で、ある程度の覚悟は出来ていましたから」
そう告げてもジャーファルさんは、納得がいかないようであった。
私は、ジャーファルさんが傷痕のことまで心配してくれているということだけで十分だと云うのに。
ジャーファルさんの優しさが、胸に染みる。
「ありがとうございます」
そう言うとジャーファルさんは優しく微笑んで、傷の手当てを始めた。
─ガチャ
ノックもなしにドアが開き、ビクリと身体揺れる。ジャーファルさんが警戒体勢をとったが直ぐにとかれすっとんきょうな声を上げた。
「シン?!」
叫ばれた言葉に、今度は私が警戒体勢に入った。
**
シンドバッド王は、陽気に部屋に入ってくるなりジャーファルさんを落ち着かせた。
「まぁ、落ち着け。ジャーファル」
「これが、落ち着いていられますか」
それから、ジャーファルさんがシンドバッド王に対しガミガミとお説教を始めた。まだ、仕事が片付いていないでしょう。女性の部屋にノックもなしで入るなど何事ですか。しかも、夜に。ガミガミ。ガミガミ。
ジャーファルさんは、烈火の如く怒った。
私は、そんなジャーファルさんに呆気をとられポカンとしていると、シンドバッド王と視線が合ってしまった。絶望した。
キュッと身体が硬直するのがわかった。
「そんな緊張しないでくれ」
無理です。ごめんなさいと言えること出来ず、少しだけ肩の力を抜いた。
「出来れば、毎日会いに行きたかったんだか中々仕事が片付かなくてね。遅くなってしまって、すまない」
「い、いえ」
一国の主が、ほいほいと会いにくるのもどうかと思うのだが。だが、気持ちはとても嬉しい。
「王に気にかけて貰えるとは。とても光栄です」
深く頭を下げれば、シンドバッド王は困ったように頭を掻いた。
「出来ればもっと楽にしてくれた方が嬉しいんだが」
「楽に?」
楽にとは。どういうことだと考えていると、ジャーファルさんが助け舟を出してくれた。
「よのは。シンは貴女と親しくなりたいようですよ」
「えっ、無理です」
咄嗟にそう返すと、ジャーファルさんは笑い、シンドバッド王は困ったように笑っていた。
やっちまったな、私。