冥王星にさよなら

□歯がゆい、きもち
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シンドバッドの声音の変化によのはは身体を縮こまらせる。その仕草は恐怖故だとわかっていながら、シンドバッドは敢えて無視し口を開いた。

「よのは、君は気絶したんだ。わかっているかい」

よのはが見知らぬ女性を救ったことは確かであった。たが、一歩間違えればよのはが傷を負っていたかもしれないと考えると、シンドバッドは気が気ではなかった。なのに、よのはの口振りは相手を救えるなら自分が傷を負うことは仕方がないと言っているように聞こえた。いや、よのははそう思っている。
力がないと理解していながら、その渦中に入るよのはをシンドバッドは馬鹿だと思う。
けれど、更にやるせないのはよのはをそれを理解していると云うことだった。自分は馬鹿だ、と。力がない者が渦中に入り、どうなるか承知の上でそうしている。
やるせない。シンドバッドは、やるせなくてやるせなくて仕方がない。

「はい」

怒りを抑えながら、語りかける。よのはは、理解していると頷き真剣な顔をシンドバッドに向けていた。
キラキラ。
よのはの瞳が眩しく光る。シンドバッドは一瞬、見とれた。

「シンドバッドさん…?」

「すまない、よのはの瞳があまりに綺麗だったから見とれてしまったよ」

するとよのはは、困ったように笑った。やめて下さい、と言いながら。

「シンドバッドさんは、お世辞が上手ですよね」

シンドバッドの胸に、更に怒りが募った。
真実を告げているのに、それを本心ではないと思われているのことに。
よのはの自己評価の低さと自己犠牲の強さに、シンドバッドの怒りは爆発した。



**



「いい加減にしてくれ」

「しっしんどばっとさん…」

「よのは、どうして君はそんなに、そんなに」

告げたい思いが強すぎて、言葉に詰まってしまった。らしくない、と思いながら再度自分の思いを告げようとすると、よのはの瞳から涙が流れていた。
それが何に対する涙なのか、シンドバッドが困惑しているとよのはが涙を拭いながらポツリと溢した。

「すいません、ごめんなさい」

「それは何に対する謝罪なんだい」

「自分の身を案じていないせいで、シンドバッドさんにご迷惑をかけてしまったので」

確かに、そうだ。シンドバッドは、よのはが自分自身の身を案じていないことに対し怒りを感じていた。よのはの告げたことは合っている。合っているが、多少違う。

「確かに、よのはの言っていることは合っているよ。だが、オレは迷惑だなんて思っていない。オレが言いたいことは違うんだ」

「違うんですか」

「ああ。よのは、君が怪我をするとオレは傷付くんだ。よのはが気にしていなくとも、よのはの周りにいる人は君が怪我をする度に傷付くんだ」

そう告げると、よのはは思い出したような納得したような申し訳ないと云うような顔をした。

「…申し訳ありません」

「いや、オレの方こそすまない」

柄にもなく、怒ってしまったことを反省する。よのはのこととなると、随分自分はらしくないなぁとシンドバッドは思った。

「シンドバッドさんは、私を思って言ってくれているんですから、とても有難いです」

照れたようによのはが笑う。
そんなよのはを見ていると、妙に落ち着かない自分がいた。



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