冥王星にさよなら

□おもいのゆくすえ
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ケタケタ。ハッハッハッ。
中庭から笑い声が聞こえる。しかも、盛大に腹を抱えて笑っていると見なくてもわかる声で。
シンドバッドの隣を歩きながらジャーファルは、笑い声の主がシャルルカンだとわかったがもう一つの声の主がわからない。
シンドバッドも同じようで、頭を捻らせていた。

「誰でしょうか」

「さっぱりだ」

考えるの放棄し2人で、その現場まで確かめに行くことにした。シャルルカンの笑い声が聞こえるのはいつものことだが、もう一つの声は誰の者だか全く検討がつかない。シンドバッドでさえ、わからないのだ。
確かめにいくしかないだろうと、中庭に足を向けた。

「女性であることは間違いないだが」

「モルジアナですか」

モルジアナが腹を抱えて笑っているところを見たことがない為、名を上げてみたがシンドバッドは首を横に振る。

「いや、違う」

「では、よのはですか」

ふっと、彼女の名を上げてみた。よのはは、よく笑うが腹を抱えてまで笑ったところは見たことがなかった。

「よのは、よのはか、いやだが、」

言葉の途中で、シンドバッドが喋るのを止めた。ジャーファルは、急いでシンドバッドが見ている方に顔を向けた。

「よのはでしたか」

シャルルカンと笑っていたのは、よのはだった。
何時ものように、優しい笑いではなく腹を抱えて笑う姿に一瞬目を疑った。たが、どこからどう見てもシャルルカンの隣にいるのはよのはであった。
あんな顔もするのか、とジャーファルは少し寂しく感じる。気の置けない友人といるような表情をしているよのはは、ジャーファルの知らないよのはの姿であった。
よのはがジャーファルを慕ってくれていることは確かであった。だがそこには、尊敬や感謝の気持ちが当然のように存在していた。もっと楽にすればいい、と告げるとよのははいつも困った顔で笑う。
─難しいですねぇ。
ジャーファルは、腹を抱えて笑っている、何も背負っていない無防備なよのはが見たかったのだ。
シャルルカンとは、年が近いから親しくなれるといいと思っていた自分の予想を遥かに越えて、2人は親しくなっていた。真逆のような2人だが、笑い合っている姿を見るととても長い付き合いのある間柄に見えた。
シャルルカンが、よのはと会ったと言っていたのはつい先日。どれだけ、気が合ったのだろうか。
あっという間に、よのはと親しくなったシャルルカンに少し妬けてしまう。
けれど、よのはの笑っている姿は年相応に見え胸の奥が温かくなった。
こうやって自分の居場所を少しずつ作っていったらいい、とジャーファルは思う。妹を思う兄のような気持ちになり、ジャーファルも2人につられ笑いそうになった。が、その笑いは一瞬で消えた。
シンドバッドの表情に息を呑む。
誰よりも、よのはの身を案じていたシンドバッドならこの場面は優しく微笑んでいるものだと思っていたのだが。
シンドバッドは、無表情だった。その表情に、恐怖を感じる程、無表情であった。
この場面で、その表情はどうしたって可笑しい。
ジャーファルは、シンドバッドに声を掛けようとすると、シンドバッドの方が先に口を開いた。

「よのは、」

ゾワリ。
ジャーファルの身体に鳥肌が立つ。
よのはと呼ぶシンドバッドの声が熱を孕んでいた。出来ることなら聞き間違えであったて欲しかったが、ジャーファルは気づかないフリが出来るほど馬鹿ではなかった。
ジャーファルとシンドバッドは、よのはに対し同じ気持ちを向けているものだと思っていたのだが、どうやらそれはジャーファルの検討違いのようであった。
ジャーファルは、よのはを庇護する対象として見てきた。
だが、シンドバッドはよのはをそうは見ていなかった。
まぁ、あれだけ思われていれば当然か、とジャーファルは、ため息を吐きそうになり急いで飲み込んだ。


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