冥王星にさよなら

□まいごのおさなご
1ページ/1ページ


何がどうして、この状況になったのかよのはは見当がつかなかった。
シンドバッドの晩酌に付き合い、ほどよく酔いが回った頃、意気なり組しかれた。
よのはは、強く思う。
そんな雰囲気では決してなかった、と。
性別が違うのだ。
何か起こるのもまた仕方ないと思う。だがこれは確実によのはの見当違いなどではなく、起こってはならないことである。
お互いに想い、愛しているのら何ら問題はないと思う。しかし、シンドバッドとよのはは愛し合ってなどいなかった。
大切だと思う。尊敬している。
けれど、それはまた違う愛情でありこのような行為に至る愛ではなかった。
よのはを組敷いたまま、シンドバッドはぼんやりしていた。これは自分を誰かと間違えているのではないかと思い、なるべく意識しないようにシンドバッドに告げた。

「シンドバッドさん! 私は、よのはですよ!!」

だから、ねぇ、退いて下さいと、何でもないように告げた。この後、笑って誤魔化せるだけの余裕を持って。
すると、シンドバッドはゆっくり微笑んだ。
その顔が、あまりに妖艶で息を呑む。

「ああ知っているよ、よのは」

身体中に鳥肌が立つ。
シンドバッドが発した声に、身体中が拒絶反応を起こした。
気持ち悪い、早く退いて欲しかった。

「なんで、こんなことっ」

シンドバッドから逃れようを、身体中を捻るが掴まれた手首は動かないままであった。

─クソッ

内心で毒を吐く。
一体何が、いけなかったのか。
2人で一緒にいることが多かったせいか。無意識に、シンドバッドの中に踏み込み過ぎてしまったのだろうか。それとも、自分がそれらしい態度をとってしまったのか。
いくら、頭で考えてもどれも違うような気がした。

「なんで、って。オレはよのはが大切だからだよ」

「大切だから、抱くんですか」

「ああ」

シンドバッドは何の躊躇いもなく頷いた。
一件、道理に通っているようだがそこには大切なものがかけていた。
愛情、だ。
シンドバッドの行為には、愛情がない。
よのはは、それを肌で感じとった。

「けれど、シンドバッドさんの行為に愛はありませんよね」

「違うよ、よのは。愛があるから抱くんだ」

「じゃ、大切だと思うのなら同性でも同じことが出来るんですか」

「いいや、出来ないな」

薄ら笑いそう言うシンドバッドは、呆れたような顔をしていた。
その表情は何故、そんなことを聞くんだと言っているようでよのははなんとも言えない気持ちになった。

「愛は、行為をしなくても確かめ合うことが出来ますよ」

「だが、本当に気持ちがあるのかは確かめることは出来ないだろ。抱けば、明確にわかる」

「確かにそうですが、抱くことだけが愛とは限りません」

名を呼び合うこと。会話をすること。笑い合うこと。思い合うこと。
隣にいるだけで満足で、長く会っていなくとも相手が元気なら満足で。
それも、愛だと。よのはは思う。
わざわざ確かめ合わなくとも、愛情を向けられていれば自然とそれはわかるものである。
よのはは、昔からそれを愛情だと思ってきたしそれらを惜しみ無く向けられて育ってきた。それが、愛だとは誰も言わなかった。
たが、よのははそれが愛だと自然に理解した。

「でもオレはよのはを抱きたい」

大切だから、とシンドバッドは続けた。
よのはは、悩む。
一緒にいるだけで、会話をするだけでシンドバッドがよのはを思っていてくれていることは伝わっている。
よのはは、それが異性の愛情ではないとわかっていた。
なのに、シンドバッドはよのはを抱きたいと言っている。それが、相手を大切に思っていると云う気持ちを伝える最良の方法だと思っている。
何故、だろう。
何故、シンドバッドはそう思うのだろう。

「シンドバッドさんが、私を大切に思ってくれていることはわかっていますよ」

大丈夫ですよ。
まるで、幼い子に言い聞かせるようによのはは告げた。
シンドバッドは、一瞬怯み再度口を開く。

「だが、よのはは、」

「はい」

「満足なのか」

迷子になった子どものような顔をするシンドバッドによのはは優しく語りかけた。

「じゅうぶんすぎるくらいです」

すると、手首を掴む力が弱まりするとシンドバッドの手を抜け、よのはは起き上がった。
シンドバッドは、よのはを組敷いた体勢から全く動かなかった。

「シンドバッドさん」

「よのは、」

「大丈夫です」

何を言うわけでもなく、優しくシンドバッドを抱き締めた。泣いてしまった、幼い子どもをあやすように。
ポンポン。
よのはが辛い時、悲しい時、母親がしてくれたように優しく優しく背中をたたく。
シンドバッドは、多くのものを求められ過ぎてしまったのだ。また、与え過ぎてしまった。
故に、愛の基準が曖昧なものから明確なもになってしまったのだろうと、よのはは思う。
シンドバッドの手がよのはの背に届き、力強く抱きしめる。

「シンドバッドさんが、して欲しいならずっとこうしていますよ」

「…ああ」

よのはの肩に顔を埋めるシンドバッドが、幸福な顔をしていたことをよのはは知らない。


[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ