冥王星にさよなら
□戯言と君は笑って
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今日は酒が飲みたい気分だと思った。
何気なく、それを部下に溢せばいつの間にか今宵は宴になっていた。
部下がシンドバッドの身を思い、そうしてくれたのかと思うと自分は本当にいい部下を持ったと嬉しく思う。
わいわいと、周りが楽しんでいるのを眺めながら少し離れた場所で酒を楽しんでいた。
「注ぎましょうか」
上から降ってくる声の主に目を向ける。
「よのは」
名を呼んだだけなのに、よのははとても嬉しそうな顔をした。
シンドバッドの空いたグラスに酒を注ぎ、ふっふっと小さく笑った。
「今日は皆、シンドバッドさんに元気になって欲しいと思い主催したんですよ」
「そんなに、オレは疲れているように見えるのかい」
「いいえ、逆だからです」
そう告げよのはは、シンドバッドの隣に腰を下ろし宴を眺めた。
よのはは、何も喋りはしなかった。
ただ、隣にいるだけ。
それだけだった。
確かに、ここ最近の国の問題はどうにも上手くいかなかった。シンドリア自体は上手く行っているのだが、他国との情勢は上手くいっているとは言えなかった。
指導者がいない、王という存在がいない小さな国とはなかなか折り合いが着かないでいる。貧しい国だけに同盟を結べば多少なりとも潤うし、シンドリアとしてもその国特有の生きるすべや受け継がれているものは得がたいものであった。たが、その国の民はシンドバッドが国を支配しているのではないかと思っているものが多くいた。いくら違うと、お互いの利益の為だと説いても、シンドバッドが持つ眩しさから首を縦に振ってくれるものはいなかった。
しかし、シンドバッドは諦めたくなかった。指導者や王がいない国がどうなるのかその行く末が目に見えているだけに何とかしたかった。同盟を結び、政治を教えてやりたかった。
たが、国の者は現状で満足していた。変わりたくはないのか、とシンドバッドが問えば問題ないと口々に唱える。なのに、貧しいことに嘆いていた。豊作になれば、この国に人口が増えればと。それは変化を求めているのではないかと言えば、民はそうではないと言う。
不満を言わない人間がどこにいる、と。
シンドバッドは呆れた。
馬鹿げている、と。
ああなって欲しい、こうなって欲しいと願いながら今の生活が変わらないことを望んでいる。
部下は口を揃えって言う。
この国は駄目だ、と。何故、この国の者たちにそこまでするのか、と。
行く末がわかるからこそ、なんとしてやりたいのだ。
けれど、時々やるせなくなる。シンドバッドも人間だ。
何もかも、どうでもよくなってしまう時くらいある。
「よのは、少し外に出ないか」
すると、よのはは満面の笑みで頷いた。
外に出れば、柔らかい風が吹いていた。
酒で火照った身体に、風がとても心地良かった。
「気持ちがいいですね」
「ああ」
よのはの言葉に同意する。
ふっ、と思う。
──旅に出たい
胸の奥から、何かが込み上げてくるのをシンドバッドは感じる。
「シンドバッドさん?」
「よのは、しっかり掴まっていてくれ」
「えっ、わっ」
不思議がる表情を無視し、よのはの膝を抱え横抱きをした。
状況が飲み込めないよのはは、くるくると表情が変わる。面白いな、と思いクスリと笑えばよのはは少し怒った表情をした。
「意気なりどうしたんですか」
「遠くへ行こう。どこか遠く、誰もしらない綺麗な場所へ行こう」
「酔っているんですか」
よのはは、シンドバッドの身を案じて伺うようにそう問う。その表情があまりに不安気で、愛しく感じてしまった。
「ああ、」
肯定すれば、よのはは仕方ないと云う顔をした。
「…どんなところへ行きたいんですか」
「よのはは着いて来てくれるのかい」
きっとよのはは冗談だと思っている。酔っているシンドバッドの戯れ言だと。
「シンドバッドさんが、望むなら」
息を飲む。
「八人将の皆さんもついてきてくれますよ」
穏やかによのはが微笑む。
違う、そう言うことじゃないんだと言いたくなったがそれを告げればよのはが混乱するのは目に見えいた。
誰でもなく、よのはが良かった。
何もかも棄てて、遠くに行きたい。王ではなく、シンドバッドとして。その隣で、よのはが笑っていてくれたら。
どんなに、どんなに。
「私は、海も山も好きですからね。どこだってついていかれますよ」
「…こまのまま行ってしまおうか」
「ターバンに乗って、夜空を飛びながらなんて素敵ですね」
君が望むなら、なんだって。
なんだってしよう。
企画
せんきゅー れでぃより