君がくれたもの

□Ep.8 小さな相棒
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「この森に人間のお客様とは珍しい…。我々に何かご用ですかな?」
「あっ、いえ、俺は…。」
バチカルからの脱出後、イオン様やシンク達との合流に選んだチーグルの森。
その森の散策中に、俺は何やらうさぎに似た可愛い魔物を助けた。
その「みゅ」としか鳴かない魔物に引っ張られてたどり着いた大木の元で、今俺は…喋る魔物と向き合っていた。
この魔物、どうやらこのチビ助達の長らしい。
確かにその佇まいにも小さいながらに威厳が感じられた。
「あの、あなた方はこの森を住み処にしておられるんでしょうか?」
何を話したらいいかわからず、見ればわかるそんなとんちんかんな質問をしてしまった。
―…が、その長は別に気にする様子もなく、普通に頷いてくれた。
「左様、我々チーグルは、確かにこの森に何百年と住み続けておりますよ。」
「ーっ!今、チーグルと仰いましたか?」
こいつは驚いた…。
チーグルと言えば、ローレライ教団が"象徴"として掲げていながら、その姿すら知られていない幻に近い魔物だ。
"チーグルの森"の名前通り、そりゃ何処かには居るだろうとは思ってたけど、予想してた姿と大分違う。
「―…。」
「みゅ?みゅみゅぅ!」
「おっと!よしよし、んなくっつくなって。くすぐったいってば(苦笑)」
思わず最初に俺に飛び付いてきたチビ助をガン見すると、また飛び付いてスリスリしてきた。
可愛いけど…これじゃ"象徴"っつーより"マスコット"だな。
なんて内心苦笑しつつ、長老に向き直った。
この魔物達がこの森の主だって言うなら、ライガクイーン達が何故ここに来ることになったかがわかるかも知れない。
「…少々、失礼なことをお聞きしてもよろしいでしょうか?」
「構いませんよ。」
「―…昨日まで、ライガクイーンがこの森に住んでいましたよね?」
「みゅ!?」
俺がそう言うと、さっきまで俺にスリスリしていた仔チーグルがビクリとした。
「よくご存知ですな。」
「えぇ、ライガクイーンとは少し面識があったものですから。」
「…ふむ、ライガクイーンのことが何か?」
「―…、単刀直入にお聞きしましょう。何故クイーン達がこのチーグルの森へ来たんです?」
元々、ライガクイーンはチーグルの森から離れた別のエリアで平穏に暮らしていたとアリエッタは言っていた。
何か不測の事態にならない限り移住なんて有り得なかったろう。
そんな疑問をぶつけるように、長老に一歩近づく。
「ここは元々貴女方チーグルの森だ、知らぬ存ぜぬは無しですよ。」
「みゅぅぅ…。」
ざわつくチーグルの中でも、俺が助けた水色の奴があからさまに震えているのがわかった。
もしかして…、コイツが何か…?
「その原因ならば、貴方が連れてきて下さったその者に聞くと良いでしょう。」
「―…!どういう意味です?」
「…その仔チーグルのミュウは、私のソーサラーリングを勝手に持ち出し、使用してしまったのですよ。」
「"ソーサラーリング"…?」
それは、長老の持っている腕輪のことだろう。
これをチーグルが使ったからって、どうなるって言うんだ?
人語が話せるようになるだけじゃないのか?
「我等チーグルは、様々な能力を持っています。空を飛ぶことも、火を吹くことも出来る。しかし、これ等の能力は本来、"大人になってから使える"能力なのです。」
「つまり、子供にはまだ使えないと…。」
「左様。そしてそのミュウは、まだまだ幼い"子供"です。」
「みゅうぅ…。」
ミュウを見下ろすと、大きな瞳から雫が溢れていた。
その涙で、嫌でもコイツに原因があることがわかってしまう。
そんな嫌な予想の通り、長老はこう続けた。
「本来ならば火はまだ吹けぬ仔チーグルだが、ソーサラーリングを使用すれば火を吹くことが可能となる。ミュウは、勝手にソーサラーリングを持ち出すだけに飽きたらず、ライガクイーン達の住む森を誤って火事にしてしまったのですよ。」
長老のその言葉に、周りで話を聞いていたチーグル達も一斉に鳴き出した。
言葉は通じなくたって声色でわかる。
今、彼らはミュウを責め立ててるんだ。
ミュウはすっかり萎縮して、小刻みに震え泣いていた。
このままには…、しておけないよな…。
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