君がくれたもの

□Ep.9 狂い出す歯車
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「一体どうなっている!!未だに導師イオンは捕まらないのか!!?」
バンッと苛立ちをぶつけるように机を叩いて立ち上がった男は、目の前に立つ騎士たちにこう告げる。
「世界を繁栄に導く為には、何としてもキムラスカとマルクトに戦争させねばならん!だが、あの導師は今なお戦争回避の為に動いている!このまま放っては後々厄介だ。最早手段は問わん!何としても、導師を連れ戻すのだ!!」
男の言葉に強く頷き、騎士達は部屋を飛び出していった。
一人部屋に残った男は、忌々しげに唇を噛む。
「ユリアの預言を守ることこそが、この世界を守ることに繋がるのだ。なんとしても預言を、預言を…。」
コンコンッ
「ーっ!入れ。」

突如響いたノックに答えると、扉を開けて大柄の騎士が部屋へと足を踏み入れる。
「お呼びですかな?大詠師モース。」
「あぁ呼んだとも!貴様等六神将は一体何をしている!?いつになったらあの忌々しい導師を捕獲出来るのだ!!!」
苛立ち椅子を蹴り飛ばすモースの姿にも怯えず、大柄の騎士は静かに応える。
「現在、ヴァン謡将、アッシュ特務室団長他、更に2名の六神将が追跡に当たっております。しばしご辛抱を。」

「ふんっ、頼むぞ。平和条約など結ばれたら、それこそおしまいだ!!」
「承知。では、失礼する。」
大柄の騎士は、モースのピリピリした視線を背に静かに部屋を去り、そのまま一度窓から空を見上げる。
「ー…。」
彼の頭に過るは、かつて奪われた最愛の娘か、それともこの場で幾度も共に過ごした息子同然の青年か…。
「ラルゴ、どうした?」
「リグレットか…。いや、何もない。」
「…そうか。大詠師モースに呼び出されたと聞いたが。」
「導師捕獲の件でお叱りを受けた。ル…、アッシュ達からはまだ報告はないのか?」
「ー…あぁ、ないな。」
「…そうか。」
2人の間に、妙な沈黙が流れる。
「ー…六神将に任命されて以降、アッシュは少々人が変わったな。」
沈黙を破り、先に口を開いたのはラルゴの方だった。
「ー…それは、軍人として現実を見る機会が増えたからだろう。」
先ほどまでと違い、少し張りのない声色でリグレットが答える。
そのいかにも当たり障りのない返答に、ラルゴは僅かに口角を上げた。
「嘘が下手だな、リグレット。…話したのだろう?」
『何を』と皆まで語らないところがなんともこの男らしい。
「ー…あぁ。我らが預言に縛られたくないように、奴にも自身の自由を掴む権利くらいあるだろう。」
リグレットのその言葉には、ラルゴはもう答えなかった。
ただ、胸に下げるロケットを握りしめる。
「ー…そのことで奴が我等の信念に意義を唱えたら?」
「…無論、私は戦う。閣下の理想の為にな。」
「ー…。」
ラルゴはその答えを聞き、リグレットに背を向け歩き出した。
かつて、彼等はそれぞれどうしようもないほどの絶望を味わい、預言をー…強いてはこの世界を滅ぼす道を選んだ。
しかし数年前、自分達の作戦に必要だとしてヴァンが作り出した一人の少年。
その少年はまだ赤ん坊同然で、心はまだ預言に侵食されていない…、ある意味、何よりも自由な存在のように感じられた。
その少年と過ごした時間は一筋の光となり…、闇に沈んでいた者達に『迷い』を与えている。
「シルヴィア…、メリル、俺は…。」
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