君がくれたもの

□Ep.1 それぞれの幸せ
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稽古着に着替え中庭に出ると、そこには既に師匠が待ち構えていた。
ルーク:「師匠、よろしくお願いします!!」
一礼をし、稽古が始まってからはあっと言う間だった。
いつものことだが、稽古が終わるまでの数時間の間、俺の攻撃はかすりもせずに終わってしまった。
それがどうにも悔しくて、いつも稽古が終わったあとは密かに自主連をしたりもするのだが…。
ヴァン:「よし、ここまでにしよう。
もうそろそろ行かねばならん。」
ルーク:「ーっ!」
ヴァン:「しばらくは来られないだろうが、稽古はしっかり続けるように。
お前は私の一番弟子なのだからな。」
ルーク:「…はい。」
優しく微笑む師匠の笑顔。
7年前、マルクトに誘拐され記憶障害を起こす前は大好きだったはずの師匠の笑顔が…、今は、少しだけ恐く感じる。
何故そう感じるのかはわからないが、何だろう、何かとても大切な事を忘れているような…。
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ルーク:「はぁ…。」
出発した師匠を見送ったあと、自室のベッドに体を投げ出す。
誘拐事件の後、俺はこの屋敷から出してもらえなくなってしまった。
僅かではあるが記憶喪失にもなったことだし、心配されているのもわかるが、毎日毎日、まるで変化のない鳥かごの中で過ごしていると…。
ルーク:「気が滅入るな…。」
コンコンッ
ルーク:「…チッ、こんなときに…。
誰だ!?」
ナタリア:「私ですわ、ルーク。
今お時間よろしくて?」
ルーク:「ーっ!
あっ、あぁ、すぐ開ける!!」
思わずベッドから飛び起き、ドアを勢いよく開いた。
ナタリア:「少し空き時間が出来ましたので、会いに来ましたの。
今日は星空がとても綺麗ですから、テラスで少しお茶にしましょう?」
ルーク:「え、あ、いや、今は…。」
しばらくぶりに愛しい婚約者が会いに来てくれたのは嬉しいが、今は流石に優雅にお茶会をする気にはならない。
せっかく誘ってくれたナタリアには申し訳ないが、断ろうと口を開きかけるも…
ナタリア:「さぁ、すでにガイがテラスにケーキと紅茶を用意してくれていますわ!
行きますわよ!!」
ルーク:「あっ、おいっ、ナタリア!!?」
問答無用でテラスに連れ込まれ、結局お茶会をする羽目になった。
ナタリア:「さあ、どうぞルーク。」
ルーク:「あぁ、ありがとう。」
ナタリアがご機嫌で紅茶を注いでくれた。
まだ湯気のたつそれを口に含めば、カモミールの柔らかな風味が舌に広がった。
ルーク:「…美味いな。」
思わず漏れた言葉に、ナタリアが自慢げな表情を見せ「そうでしょう?」と言った。
ナタリア:「カモミールやダージリンには、気持ちを落ち着かせてくれる効果があるのです。」
ルーク:「…?だから何だ。」
ナタリア:「ですから、このカモミールティーを飲めば、ルークも少しは元気になってくれるかと思いましたの。」
ルーク:「ナタリア…。」
そうか…、これで納得がいった。
そもそも、一国の姫ぎみである彼女がこんな時間に俺のもとに来るなんて、普段ならばまずあり得ない。
元々ナタリアは思い立ったら行動せねばいられない性格ではあったが、それでもわきまえるべき所ではちゃんとわきまえているしっかり者でもある。
先ほどから、何故こんな時間に来たのだろうかと思っていた自分が酷く情けなく感じた。
簡単なことだ。
彼女は慰めに来たのだ、師匠が仕事に行ってしまい拗ねていた俺を。
ルーク:「―…、ナタリア。」
ナタリア:「なんですの?」
ルーク:「…ありがとう、側に居てくれて。」
ナタリア:「…当たり前ですわ、私が貴方の側に居たいのですもの。」
ルーク:「…///」
昔から、俺の隣には常に彼女が居た。
今までも、そしてこれからもそれはずっと変わらない。
「死ぬまで一緒に…。」
まだ幼いときに彼女にしたプロポーズの誓いは、決して破れることはないと信じていたんだ。
…そう、あの運命の日まで、これからの未来も明るい物であると信じて止まなかったのだ。
"もう一人の俺"に出会う、あの日までは…。
〜to be continue〜
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