君がくれたもの

□Ep.3 母と娘
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〜暴動から5日後・エンゲーブ〜
「イオン様ぁ〜っ、あんまり無理しちゃダメですよ!
お身体に障りますから!!」
「ありがとう、アニス。
でも、僕は大丈夫です。
僕の体のことより、食料泥棒の件を早くなんとかしてあげなくては…。」
「そうですねぇ。
今、マルクト全体が戦争前の緊張感に包まれていますから。
下手な騒動は、厄介になる前に片付けるに限ります。」
「それはそうですけどぉ〜…。」
「と、言うわけで、適当な人物を犯人にでっち上げてつきだしましょうか♪」
「あっ、それいいかも♪
その方が手っ取り早いですし、めんどくさくないですからね。」
「だっ、ダメですよ2人とも。
罪のない人を巻き込んではいけません。
ここはやはり、僕たちで真犯人を見つけなくては…。」
導師イオン行方不明による暴動からおよそ5日後、教団の追っ手からかろうじて逃げ切った一行は、マルクト帝国領・エンゲーブに身を隠した。
その街で1泊し、再び目的を果たすべく出発しようとした時…。

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「また食料庫が荒らされた!!」

「またなのか!!?今月に入ってから、もう何度目かわからないじゃないか!!」
「一体どこの誰がこんな事を…。」

「―…食料泥棒のようですね。下手に干渉して疑われても厄介です。関わらないようにしましょう。」
「そうですね。今は一刻も早く親書をキムラスカに届けなきゃですし。ねっ、イオン様!!…って、あれ?」

「どうかされたんですか?何かお困りのようですが…。」

「何なんだあんたは!」

「僕はローレライ教団の、導師イオンです。今はとある任務の為、教団を離れていますが…。そんな事より、お困りなら良かったら力になりますよ?」
「ホントか!!?だったら……。」


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「すみません、僕が犯人探しなんて安請け合いしたばかりに、2人にもご迷惑をかけてしまって…。」
「いえ、こうなってしまったものは仕方がありませんから。」
「そうですよ!
イオン様は良かれと思って行動したんですから!」
「ありがとう、アニス、ジェイド。」
「さてと、では、とりあえず食料庫に残っていた足跡の主を探しましょうか♪」
「おーっ!
…って言っても、ずいぶん小さな足跡ですよね。
あれって、一体何の足跡なんでしょう?」
「そうですね…、倉庫に残っていた足跡と毛から推測すると、聖獣チーグルではないかと…。」
「チーグルってどんな魔物なんですか?」
「さぁ…、私も実物を見たことはありませんので。
しかし、この森が『チーグルの森』と呼ばれている所を見ると、この場所には多くのチーグルが暮らしているはずです。」
「そうですね、僕もそう思います。」
「じゃっ、ちゃっちゃと捜して帰りましょう!」
「―…その必要はありませぬぞ。」
「だっ、誰!!?」
「どなたもいらっしゃらないようですが…。」
「ほっほっほ、ここですよ。
若者達よ。」
「おや、これはこれは…、ずいぶんと小さなご老人ですね。」
ジェイドが声がした辺りにしゃがみこむと、アニスとイオンもそこを覗き込む。
「驚きました…、貴方がチーグルの長ですか?」
「…いかにも、私がこの森のチーグルの長老。」
「長老直々にお出迎えとは、話が早い。
単刀直入にお聞きしましょう、エンゲーブの食料庫から度々食料を盗んでいるのは、貴方達ですね。」
ジェイドが眼鏡を押し上げながら長老に尋ねると、長老は言い淀むでもなく静かに頷いた。
「…その通りです、ですが、我々にはそうせねばならぬ理由があるのです。」
「ちょっと!こっちはあんた達のお陰で親書を届けるのが遅れてるんだよ!!?
これ以上時間かけてらんないっちゅーの!!!」
「…待って下さい、アニス。
チーグルはローレライ教団の聖獣、盗みなんてするわけがありません。
きっと、それ相応の理由があるはずです。」
「―…うむ、その理由とは…」
グォォォォォッ!!
「なっ、何よ今の雄叫び!!」
チーグル長老の言葉を遮るように、森に不気味な鳴き声が響く。
「あの声の主…、ライガこそ、我々が人間達より食べ物を盗まねばならぬ理由なのです。」
「ライガ!!!?」
「おかしいですね…、ライガがこんな森で暮らすとは思えませんが?」
「実は…。」
ジェイドの問いに対し、長老は全ての真実を話した。
自分達チーグル属の暮らすチーグルの森から少し離れたところに、ライガ達は平穏に暮らしていた。
しかし、ある日チーグルの子供が長老の持つソーサラーリングを使いイタズラに火を吹いたところ、その火で山火事が起こりライガ達の住みかが燃えてしまったことを…。
「そしてこの森に移住してきたライガ達は、定期的に食料を献上せねば我等の仲間をさらって食料にするといってきたのですよ。」
「―…成る程、事情はわかりました。
しかし、これはよろしくありませんね…。」
「大佐、何がよろしくないんですか?」
「ライガの子は、人間を好んで食べます。
放っておけば、街の住人に危害を加えるかもしれません。」
「そんな…、ライガの群れに襲われたりしたら、エンゲーブが壊滅してしまうのでは?」
「えぇ。それに、このエンゲーブは世界中の食料の多くを生産している大切な街。
潰させるわけにはいきません。」
「では…」
「えぇ、ライガを倒す他ないでしょうね。」
「では、我等の仲間を1匹お供に着けましょう。」
チーグル長老が横にずれると、その後ろから鮮やかな水色の子チーグルが飛び出してきた。
「ミュウと申しますですの!
よろしくお願いしますですの!」
長老に渡されたリングを腰に持ちペコリと挨拶したその仔チーグルを連れ、イオン達はライガ退治に向かうのだった…。
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