君がくれたもの

□Ep.3 母と娘
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「はぁ…、なかなか見つからないなー。」
ダアトで暴動を沈めてすぐ、俺はシンクとアリエッタを連れて導師イオンの捜索に出た。
「イオン様、身体が弱いのに…、心配…です。」
「そうだな…。
シンクが何か情報を掴んでくれるといいが…。」
とりあえずヴァン師匠が掴んだ情報を頼りにエンゲーブに到着したのが今朝のこと。
導師イオン一行が泊まったと言う宿だけは何とか突き止めたが、そこから先の足取りは掴めず、結局今はシンクが街に聞き込みをしにいってくれているんだけど…。
「ルーク、掴めたよ足取り!」
「ばっ!!?その名前で呼ぶなよ!」
「あ…、ごめん。
って名前なんか気にしてる場合じゃないんだって!」
「何焦ってんだ?
足取り掴めたんだろ?」
「その足取り情報の他に、街で食料泥棒の情報と…。」
言葉を切り、一度アリエッタの方に目をやるシンク。
「…っ、ここ数ヵ月ライガクイーンがチーグルの森に住み着いちゃって、近々ライガの子供が生まれるだろうから、その前に…ライガクイーンを退治するって情報を聞いた。」
「ママが…!?」
シンクの言葉を聞くなり、アリエッタは魔物達を連れ空に飛び立ってしまった。
「待ちなさいアリエッタ!
1人で行っちゃダメだ!!」
俺の叫びも、羽ばたきの音に欠き消された。
「育ての親の危機だ…、冷静では居られないか。」
「数時間前に、イオンがネクロマンサーを連れてライガ退治に向かったって。」
「…あぁ、そうだろうな。
アリエッタを追うぞ。」
「あぁ、ライガクイーンを死なせるわけに行かないし、イオンを連れ戻すチャンスだからね。」
「―…行こう!」
チーグルの森は広かったが、幸い思ったより歩きやすかった。
それに…
「こんのぉ〜っ!邪魔しないでよ、この根暗ッタ!!」
「アリエッタ根暗じゃないもん!
ライガママは、アリエッタのお母さんなんだから!!
絶対に殺させないもん、アニスの意地悪!」
「うわぁ…ι」
「思いっきりバトっちゃってるね。
どうする、ル…、アッシュ?」
「まっ、まぁ、アリエッタが間に合ったお陰でライガクイーンは無事なようだし、とりあえず仲裁しよう。」
「って言うけどさ…、アレに割って入るの?」
木陰から様子を伺えば、そこは正に修羅場だった。
最早、イオン達とライガクイーンの戦いではなく、アリエッタvsイオンの導師守護役(アニスだったっけか?)のバトルその物だ。
―…アリエッタは俺の妹分だけど、今のあいつはハッキリ言ってライガクイーンより恐い。
「全く、聞き分けのない子ですねぇ。」
「やっ、止めてください2人とも!」
「イオン様、止めないで下さい!!」
「アリエッタのママは、絶対に守るんだから!」
「そんな……。」
イオンが必死に止めようとしてるみたいだが、激闘中の少女2人は引こうとしない。
「やれやれ…、仕方ありませんね。
強行突破と行きましょうか?」
「―っ!待ってくれ!!」
青い軍服をまとった軍人が、小声で攻撃系の譜術の詠唱を始めたのに気づき、咄嗟にライガクイーンとアリエッタの前に飛び出した。
「なっ…、あんた誰よ!!?」
「突然のご無礼をお許し下さい、イオン様。
しかし、この少女…アリエッタは、元導師守護役(フォンマスターガーディアン)!
決して悪人ではありません。」
「イオン様…。」
俺の体の影に隠れながら、おずおずとアリエッタが顔を出す。ライガクイーンも、小さめではあるが唸り声を上げていた
「アリエッタ…。」
「…ふむ。その軍服は、ダアトのものですね?
貴方達は、ダアトの軍人なのですか?」
「はい。」
「はぁ!!?そんな怪しい仮面なんか着けちゃって、何が軍人よ!!!
バッカみたい!」
「アニス、落ち着いてください。」
「いえ、そちらのお嬢さんのおっしゃる通りです。
このような物で顔を隠している失礼、お許し下さい。
これに関しては、今はお話しできない訳があるのです。」
「…成る程、顔を赤の他人に見せられないほど不細工なわけですか。」
「違います!」
「「「…ぷっ(笑)」」」
「笑うな!!///」
ニヤニヤ笑いながらマルクト軍人が放った嫌味にツボったんだろう。
アリエッタにシンク、それにアニスまでもが吹き出した。
ってかシンクに関しては仮面については笑えないだろうが!!
「これは失礼。」
「あんた…、悪いと思ってないだろ?」
「えぇ、全く思っていませんよ?」
「何て言うか…、強者だね、こいつ。」
「だな…ιシンク、アリエッタとライガクイーンを連れて、少し下がっててくれないか。」
「…わかった。」
シンク達が下がったのを確認し、数歩イオン達に歩み寄る。
「―…貴方達は、ライガクイーンとその卵をどうされるおつもりですか?」
「そっ、それは…。」
イオンが気まずそうに目を逸らし、マルクト軍人は眼鏡を軽く押し上げた。
「―…ライガの子どもは、人間を好んで食べます。
ライガクイーン達がこの森で暮らしている以上、野放しにすることは出来ません。
それくらい、貴方もおわかりなのではないですか?」
「―…はい、もちろん危険なのはわかっております。」
「だったら…」
「しかし、だからと言って新しく生まれてくる命を殺していいはずがありません。」
「イオン様、そんな甘いこと言っちゃダメですよ!」
「ですが…」
「まぁ、仮にこの場でライガを見逃したにせよ、無事に生きていけるような地があるとは思いませんが。
一応貴方のお考えを聞いておきましょうか。」
「お心遣い感謝します。
私たちも、エンゲーブの人達を危険な目に合わせたくはありません。」
「えぇ、そうでなければ困りますから。」
「(いちいち嫌味な奴だな…ι)
先ほどの話でおわかりでしょうが、あのライガクイーンはアリエッタの育ての親であり、人間の言葉もしっかり理解しており、非常に知能が高いのです。」
「だから何だって言うわけ!?」
いちいち突っかかってくる少女と軍人に対する怒りを沈めつつ、何とか説得を続ける。
アリエッタの大事な母親を、死なせるわけにはいかないんだ。
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