君がくれたもの

□Ep.9 狂い出す歯車
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〜チーグルの森〜
「ーっ!旨い!!」
「でっしょ〜?なんてったって、アニスちゃんお手製のシチューだもんね!!」
神託の盾本部が騒ぎになっていたその頃、導師イオン含むアッシュ達一行は遅めの夕食にありついていた。
正確にはもうすっかり夜が明けてしまったため朝食だが、まぁそんなことは気にせず温かいシチューに舌鼓を打つ。
「アニスがこんなに料理上手だとは思わなかったよ。」
「ぶーぶーっ、それどういう意味よーっ!」
アッシュとアニスのそんなやり取りに、周りからも笑い声が漏れる。
「ー…まぁ、確かになかなかの味だよね。」
「おいし…。」
シンクとアリエッタも、珍しく文句も言わず素直に食べている。
そんな中、皆の輪から外れていたジェイドがアッシュの肩を叩いた。
「ん?どうした、ジェイド。」
スプーンを軽くくわえたまま振り向くと、行儀が悪いとシンクとアニスに叱られた。
ごめんとジェスチャーしスプーンを置いてから、再びジェイドに向き直る。
「アッシュ、先ほどから貴方の道具袋がガサゴソと動いているのですが、何か入っているのですか?」
「あっ、忘れてた。ミュウ、おいで。」
「みゅっ!」
道具袋の口を開くと、大きな耳をピコピコ動かしながらミュウが中から飛び出す。
突然のチーグルの出現に、誰より早く食いついたのはイオンだった。
「これは…!聖獣チーグルではないですか。どうしてアッシュの道具袋にチーグルが…?」
「ミュウと申しますの!皆さん、よろしくですの!」
「ちょっと訳あって俺が預かることになったんだ。とりあえず、季節が一巡りするまではこいつも俺の仲間だから、よろしくな。」
ミュウの首もとを掴んでヒョイッとイオンに渡すと、イオンは嬉しそうにミュウのことをなでだした。
「これが本物のチーグル…、僕も本物を見るのは初めてです。」
「イオン様、私にも触らせてくださ〜いっ。」
「みゅみゅみゅっ?」
愛らしい見た目にやられたのか、ミュウの周りにはいつの間にかアニスとアリエッタも寄ってミュウを撫でたり抱っこしたりしている。
ミュウは自分の置かれた状況がよくわかって居ないのかこっちを何度もチラチラ見てくるが、まぁ今は我慢してもらおう。
イオン達がミュウに夢中になっている隙に、ジェイドと今後の相談をしちまおう。
「それでジェイド、今後はどうする?」
「そうですねぇ…、イオン様の身の安全を考慮してこうして逃げてきてしまいましたが、本来ならば我々はインゴベルト陛下より親書の返事を頂かなければならない。ここはもう一度、キムラスカに戻らざるを得ないでしょう。」

「でも、まだキムラスカにはヴァン師匠が居るかもしれないぞ。」
「そこが問題だね…。ヴァンに捕まったらこれまでの苦労が全部パーだよ。」
「―……。」
シンクの言葉に、嫌な沈黙が走る。
結局のところ、全てにおいてヴァン師匠が俺達の壁だと言うことを痛感せざるを得ない。
「アッシュ、大丈夫?顔色悪いよ。」
「あ、あぁ、大丈夫だよ。で、親書の件だけど…、なんとか直接インゴベルト陛下に渡す手立てはないかな。」
「そうですね…。手だては考えてはみますが、まぁ難しいでしょう。」
『まぁ、こちらにキムラスカ王家に縁のある協力者でも居れば話は変わってくるのですが。』と言いつつ、ジェイドが含みのある目線を俺に向けた。
「―…ジェイド、それは…。」
「えぇ、わかっています。それに、『彼』が公爵邸に居る間はどのみち使えない手ですから。」
言葉を濁した俺にそう答えたジェイドの背から、アニスがぴょこんと顔を見せる。
「なになに?何の話ですかぁ大佐!」
「親書の話ですよ。やはりここは、一度グランコクマへ帰るべきかもしれませんね。」
「ほぇ?グランコクマですか?」
「ええ、ダアトにはモースはもちろん、ヴァン直属の部下も多数居るでしょうし、キムラスカには現在ヴァン謡将が居ます。この状況で、一番無難な選択肢は…」
「ジェイド・カーティス大佐の親友であらせられるピオニー九世陛下が治める、マルクト帝国の帝都・グランコクマって訳だな。」
「誰が親友ですか、おぞましい事を言わないでください。」
「さっきの仕返しだ、気にすんな。」
俺の反撃にやれやれと言わんばかりに肩を竦めてから、改めてジェイドが皆を見渡す。
「ですが現在、グランコクマは要塞の状態になっており、海路からは入れません。今の我々の立場から言って、徒歩で向かうしかありません。」
ジェイドの言葉に、全員が真剣な面持ちで頷く。
ここからが本当の正念場だ、何としても戦争を回避しないと!
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